初めての魔獣狩り 下
魔獣狩りとは言っても基本的にすることはガルフの近くを歩いて魔獣を探し遭遇したら近くで隠れるといった感じのことしかしない。まぁそうしないと余裕で死ぬので戦いたいという気持ちは全く湧いてこない。唯一不満があるとすれば草むらに隠れたりするときには絶対に顔を出すなとガルフに言われているため戦闘シーンはおろか魔獣がどんなのかすら見ることが出来ていないことだけだ。まぁ子供にグロいのを見せたくない気持ちは分かるけど俺中身大学生だから多少は耐性あると思うんですよね。
見たい気持ちを抑え戦闘が終わるのを待っているとガルフがこちらにもういいぞと声を掛ける。ガルフの近くに行くとそこには日本では絶対に存在しない通常のウサギより一回りほど大きな角の生えているウサギの死体があった。自分に耐性あるかもと思っていたがそんなことはないらしい。全身から血の気が引いていきすこし立ちくらむ。
「おっと悪いまだ見せない方が良かったか。」
ガルフが少しばつが悪そうに独り言つ。もし今具合が悪いままでいたらガルフのことだからこれからは一切見せないようにあれこれ工夫してしまいこれから魔獣を見る機会を失ってしまう可能性がある。この世界を生き抜くためにはさすがに魔獣の情報が必要不可欠だろう。慌てて俺はガルフの方を向き答える。
「いや、大丈夫。それよりもこれは?」
「そうか。これはホルノラビットっていうEランクの魔獣だな。」
「Eランク?」
「ああ、魔獣ってのはE~Sのランク毎に強さが割り振られてるんだよ。」
倒したホルノラビットと呼ばれる魔獣を持ち頭を下に向け血抜きの準備を始めながら教えてくれる。
「ガルフ、物知りだね。」
「俺は冒険者だったからな、これくらいのことは知ってて当然さ。それと呼んで悪いが今から解体すっから離れておいてくれ。」
「いや、見てたい。」
今後は自分ですることも考えて早いうちにこういうことも勉強しときたいからね。
「大丈夫か?結構きついと思うぞ?」
「大丈夫。」
「...そうか。そんなに言うならいいが吐くなよ?」
「わかった、ありがとガルフ。」
ガルフは「おう」と返事をし、作業へ移る。流れるように手を進めるガルフをじっと眺める。想像してたが結構グロいなぁ吐きはしなかったけど血が廻らず立ったまま見ることが出来ないため座ってみることにした。おそらく顔色は悪いだろうな俺。作業が終わり解体したものを袋に入れていく。一通り作業を終えたガルフがこちらを心配そうに見つめながら声を掛ける。
「大丈夫か?」
「大丈夫、平気。」
「そうかクロは強いな。」
と笑いながら褒めてくれる。ちょっと恥ずかしいな、これ。
魔獣狩りの流れは解体が終わると次の獲物を探しに行く、周りに敵がいなさそうなら解体する、また次の獲物を探す、そして時々小川が流れてる所で休憩する。これの繰り返しだった。まぁここら辺は強い魔物とか出ないらしいので比較的平和だった。
魔獣狩りを始めてから時間がある程度進み体感お昼の時間になった。他のグループもいるしノルマは余裕そうだな。敵はほとんどがホルノラビットでガルフが一人で倒して解体していく。
命は大事だけど少し戦ってみたいよなぁ。基本ガルフが戦っているときはずっと草むらに隠れているため戦闘シーンを未だに見ていないためこういう魔物みたいなのとの戦いに憧れを抱いていた
ただの大学生がそう考えるのは仕方ないと思う。ガルフさん強いからなぁ、少しくらい顔のぞかせても大丈夫でしょ。そう思い草むらから戦っているガルフを眺める。現在はホルノラビット2対を同時に相手取っているみたいだ。...もうちょっと近くで見たいなぁ。足音立てずにいけば問題ないよなきっと。そう思い今いる草むらを移動し少しずつガルフのいるところに近づく。しかし前世で森の中を歩いたことがないのとこの小さな体にまだ完全に慣れていないのか木の根に足を引っかけ転んでしまう。ただ転ぶだけならまだしも音を立てさらに転ぶときに「うわっ!」と声を上げて草の影から出てしまう。
「クロ!?なにやってんだ!」
そう声を荒げながらこちらをぎょっとした目で見つめるガルフ。やばいと思い隠れようとするがガルフより弱いと確信したのだろう、ホルノラビットの一体が迷いもなくこちらに突っ込んでくる。ガルフが止めようとするがもう1体のホルノラビットが邪魔をしこちらに向かうことが出来ない。
向かってくる純粋な殺意と敵意に脳が警鐘を鳴らす。あ、死ぬ。そう思うとほぼ同時に頭を抱えて蹲る。するとこちらに跳躍しながら突っ込んできていたホルノラビットは勢いそのまま後ろにあった木へと突進し額にある角を深々幹に刺す。大分深く刺さったのだろう、角が中々抜けずにじたばたとしている。た、助かったのか..,左胸に手を当て心臓がバクバクとなっているのを抑えようとへたり込んでいるととガルフの怒気がまじったような声が聞こえる。
「その刺さってるやつ出来るなら殺っといてくれ!クロ!」
ガルフの声を聞きまだ力が入りきらない体でなんとか立ちホルノラビットが刺さった木に用心しながら近づく。ホルノラビットはなんとか角を抜こうと暴れているが一向に抜ける気配はない。...これを、この動物を今から殺すのか?動物ましてや哺乳類を殺す、そう思うと呼吸が浅くなり手が震え足が止まる。どれくらい立ちすくんでいたのだろうか、突然後ろから頭を乱暴に撫でられる。
「まったく、お前はガキなんだから危ないことしてんじゃねえよ。」
先ほどの怒りがこもった声とは全く別物の優しそうな声を掛けられる。
「それとさっきは声荒げて悪かったな...それとこれは俺がやる。さっきは少しばかり冷静さを欠いてたみたいだ。ほれ、どいてな。」
そう言って前に出ようとする。...いいのか?この世界を生き抜くためにはこういうことも必要なんじゃないか?ずっとガルフに頼り切りでいいのか?それに今が一番安全に命を奪う経験を積むことが出来るときなんじゃないか?そう思うと体が動く。剣を持ちながら自分より前に出ようとするガルフの服をつまみ顔を見上げる。
「いや、僕がやるよ」
「..本当に無理しなくていいんだぞ?」
「いや、やらせてほしい。お願いガルフ。」
「...分かった。好きにしろ。」
俺は自分の腰に刺さっている短剣を引き抜きホルノラビットのすぐそばへ近づく。そしてそのまま短剣の先を下に向けホルノラビットの首元に突き刺す。先ほどまで角を抜こうともがいていたホルノラビットの体から力が抜け宙ぶらりん状態になる。...俺は今こいつを殺したんだな。前世でも虫を潰したりとかはあったけどこういう動物を殺すのは初めての経験だ。その事実を再認識すると体全身の血が止まったような感触を覚え、立ったままでいるのが難しくなりその場でまたへたり込む。「うっ..」さらに急に吐き気に襲われ咄嗟に口を手で覆い吐かないように必死に耐える。
「お疲れ、クロ。よくやった。」
先ほどとは少し違う励ますような優しい手つきで頭を撫でられる。気持ち悪さはまだ残っているが吐き気はなんとか収まり呼吸を荒くしながらも受け答えをしようと声を発する。
「あ、ありがとガルフ...この後はどうしたらいい?」
「大丈夫だ、後は俺がやる。お前は少し休んどけだいぶひどい顔色だしな。」
...ここは言葉に甘えよう、大分精神的に来ているし。その後はガルフが気を使ってくれたのだろう、あまり積極的に獲物を探しにいったりはせずに集合時間までの時を過ごしていると兵士の迎えがやってくる。他のグループも疲れは見えるものの誰も怪我はしていないようだ。
これからの生活が思いやられる...行きと帰りはガルフに抱えられ、狩りもあの1件以外はガルフが戦ってくれたため肉体は疲れていないがそれ以上に精神が憔悴しきっている。これからはグロいのにも慣れてかないとな..これから訪れる未来に漠然と不安を抱きながら町への帰路につく。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




