帰路にて
めっちゃ遅くなってしまいました。次回は多分早く投稿すると思う…多分!
ガタンガタンと揺れる感覚、車輪が地面を転がる音、次々に流れていく木々。2回目の体験だというのに私は胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
「リーナ、疲れてはいないかい?」
「はい、大丈夫ですお父様。むしろすごく楽しいです!」
「ふふ、リーナは馬車に乗るのが気に入ったんだね」
「うーん…そうかもしれないです!」
お父様に自分の素直な気持ちを伝えるととても柔らかい笑みが返ってくる。お父様に言われて思ったが自分は馬車から覗く景色が好きなのかもしれない。次々に景色が横へと流れていくのは面白いと思う。
侯爵家の長女として生まれた私にとってこれが初めての遠出。普段はお屋敷でお勉強をしたりお庭を散歩したりと家から出ることはあまりない。だからこうやって馬車に乗って外の景色が見られることが新鮮で仕方がない。それにお父様は本当にすごい人なんだって今回のお出かけで改めて思った。
私のお父様は国内で一番の学園、王立ベルーサ学園の理事長のお仕事をしている。今回はそのお仕事の関係で隣の国で行くことになり、お父様についていくことになったのだ。本当ならお母様とも一緒に行く予定だったのだが、お母様のお腹には今赤ちゃんがいる。一緒に行けないのは悲しいけど仕方がない。
お母様のふくらんだお腹を見ると私もお姉ちゃんになるんだなぁって思う。可愛い妹か弟のためにもっとしっかりしたお姉ちゃんにならないと…!
今回のお出かけでいつも柔和な笑みを浮かべるお父様とは違うとても真剣な表情をするお父様が見れた。パーティに出席した時、たくさんの大人の人ととても難しそうな話をしているのはとてもすごいなと思った。私も大きくなったらああいう風になれるのかな…
お父様と違って私は人と話すのがあまり得意ではない。私が唯一自分でもすごいと思えるのは回復魔法のみでそれ以外はあまり自信がない。それにほとんどお友達もいないし……
侯爵家の令嬢となると身分差のせいであまり同年代のお友達がいない。ゼロという訳ではないが片手で数えられるほどの人数しかいない。それに頻繁に会える訳ではない。寂しいなと思う気持ちはあるけれどそれでお父様に迷惑をかけたくないし…かといってパーティーで自分から声を掛けるのも難しいし…
外の景色を見ながらほんのちょっとだけ自己嫌悪に浸る。別に今の生活がつまらないという訳ではない。ただちょっと自分の性格に思うところがあるだけ。もっとこう…シャキッとした感じというか…物怖じしない人になりたいなぁ…
「リーナ、もう少ししたらフレーザー伯爵のところに着く。今日はそこでお世話になって明日家に着く予定だよ。早くリアに…お母様に会いたいね」
「はい!今回のことたくさんお話ししたいです!」
お父様の声を聞き窓から視線を外す。明後日には家に着く。早くお母様に会いたい。家族全員でたくさんお話ししたい。今回の遠出で起こったことを全てお母様に聞いてもらいたい。
「きゃっ!?」
「っ!?リーナ!大丈夫かい?」
「…は、はい…平気です……今のは…?」
数日後に訪れるであろう光景に想いを馳せていると急に馬車が動きを止める。その反動で座っていた所から体が放り出されるもお父様が私の体を受け止めてくれたため特に怪我をすることは無かった。
「っ……魔獣か…」
魔獣。存在自体は知っているが普段絶対に目にすることのない存在。好奇心が燻られた私はお父様と同じように窓から外を覗いて見る。
「白い…狼…?」
剣を構えた騎士の目の前にはこちらを囲むようにして陣取っている白い狼が映る。
「リーナ!」
いつもとは違う、硬い声が私の耳に入る。その声が聞こえたその次には、白い体毛の上に赤い花が咲いていた。
「っ……」
怪我をした人に回復魔法をかける自分は怪我をした場所を、流れている血を見ていたため多少なりとも耐性は付いている、そう思っていたが目の前で起こった殺生に全身の力がスッと抜けていくのがわかる。
「リーナ!窓の外を見てはダメだ!!こっちにおいで!!」
お父様の言われた通り窓から離れると、抱き寄せられそのまま胸に埋もれる形になる。抜けていた力が徐々に戻ってくるのを感じる。だがそれでも手の震えは止まることはなかった。魔獣の吠える声と騎士の人たちの声が聞こえてくる。その喧騒で先ほどの光景が蘇り、私の心を恐怖の色で染め上げていく。
「っ……まずいな……」
お父様の声に反応して私は顔を上げる。お父様は窓の外を見ながらとても険しい表情をしていた。もしかしたら騎士の人たちが大きな怪我をしているのかもしれない、そうなればここで私は、お父様は、みんなはあの狼に食べられてしまうのかもしれない。
やだ!!怖い!!お母様に会いたい!!!もっともっとたくさんお話ししたい!!お願い!!……女神様!!どうか…私たちを助けてください!!!
起こりうる最悪な未来を想像しギュッと目を瞑りお父様を抱きしめる力を強める。
「……なんだ…あの子は……」
お父様に抱き着いてから数秒後、世界から音が無くなる。不思議なことにオオカミの鳴き声もピタリと止まっているようだった。音のない空間で呟かれたお父様の言葉に私は思わず目を開ける。一体何が起こったのだろうと顔を上げ、外の様子を覗いてみる。
「…黒い髪の…男の子…?」
世界に音が戻る。馬車の外が再び騒がしくなる。しかし先ほどまで聞こえていた騎士の痛々しい声が聞こえなくなっていた。
あの男の子は一体……
自分の視線は黒髪の少年に釘付けだった。その少年は飄々とした態度で魔獣の攻撃を避け、軽い身のこなしで次々に狼を倒していく。
一体何者なんだろうか?あれだけの魔獣を前にして怖くないのだろうか?何故あんな風に動けるのだろうか?様々な疑問が次から次へと浮かんでくる。
自分と同じくらいの子が…あんな…あっ……行っちゃった……
少年が窓から見えない位置へ行ってしまった。馬車の外では多くの魔獣が血を流し倒れているという悲惨な光景が広がっている。しかしそんなことどうでもいいと思えるほどに私はあの子が、あの黒髪の少年が気になって仕方がなかった。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




