バケモノ 下
えー…遅れました、はい。すみませんした!!!!!
次で一応このバケモノとの戦闘が終わるます。
「…はぁはぁ…ぐはっ…な、何とか生きてるか….はは..まじ痛すぎだろ…」
俺はうつ伏せの状態から鉄のように重くなった体を起こし、後ろの木にもたれかかるようにして座り込む。口から漏れ出た血を手で拭いながら自分が生き残っている運の良さと身体中を走る激痛に笑みを浮かべる。
走馬灯が見えたあの瞬間、俺はギリギリで魔力装に思い切り魔力を込めた。そのおかげで俺は今こうして生きている。だがもちろん受けたダメージは大きい。上空から叩きつけられた俺の体は地面をボールのように跳ねながら速度を徐々に落としていき最終的に木へと衝突した。おそらく片手で数えられる数以上に骨は折れているだろうし内臓も傷ついているかもしれない。
さらに底が見え始めていた魔力は先ほど、防御に使った魔力のせいで限界がすぐそこまで来ている。今の俺はすでに満身創痍の状態。魔力的にも体力的にも長く戦うことはできない。10分….いやそんなに持ちそうにないか….
ボロボロの体。生命線である魔力の枯渇。そして自分より遥かに余力を残し、さらには今まで見たことのない衝撃波を放った異形の魔獣。今日が転生してからの生活史上最悪の日であることは間違いない。
「…今日でこの生活も終わり…….かな….ゲホッ!」
空を見上げ、口から血を吐き出しながら自分の死について思いを馳せる。
「…最初はいきなり奴隷になって最悪だーなんて思ってたけど案外楽しかったな…それもみんなのおかげだな…」
瞼を閉じ、記憶の海を泳ぎ始める。自分が転生して間も無くガルフと出会った時、初めて魔獣を殺した時、ラルトとヴァーレと会った時。自分の中に鮮明に残っている記憶を一つ一つ拾い上げ、噛み締めていく。
「…そういや最初魔獣を殺した時もこれ死ぬなって感じたっけ……あれからもう3年も経ってるのか…ほんと今思えばあっという間の日々だなぁ…」
ホルノラビットとの初戦闘の時。あの時は魔法どころか魔力の操作すらできなかったただの子供だったため普通に死んでた可能性がある。そう考えてみると俺は3年もの間特に大きな怪我もなく良く生き残ったなと思う。
「…生き残るためって言って結構魔法の練習したもんなぁ…いやぁ良く頑張ったよ、ほんと…」
これまでの自分の頑張りをちょっとだけ誰かに自慢したい気持ちになった。
「…ガルフ達とも今日でお別れ…か….」
自分の今までの道のりを振り返る中でやはり一番大きいのは仲間の存在だった。最初にガルフと出会っていなかったら俺は呆気なく死んでいただろう。途中でヴァーレとラルトに出会っていなかったらあんなに毎日を楽しく過ごすことはできなかっただろう。皆がいたからこんな死と隣り合わせの生活を笑って乗り越えられた。
「……できることならもっと…もっと一緒に…皆と過ごしたかった…な…」
ガサガサと草が擦れる音とドスドスという大きな足音がこちらに近づいてくる。自分の死を告げる音が徐々に大きくなる。
「もっと….ガルフと….ヴァーレと、ラルトと…皆で笑って…狩りをして…遊んで…」
一度は受け入れようとしていたはずだった。良く頑張ったと自分を褒め、自分の死を、仲間との別れを受け入れるはずだった。それなのに、こちらに近づいてくる音が、自分をあの世へと誘おうとするあの音が、近づけば近づくほど閉じ込めようとしていたまだ生きていたいという思いが、もう少し頑張れと自分を励ます心の声がどんどん大きくなっていく。
「…ははっ…そうだな…よいっしょっと….」
それにこいつは仲間を、家族同然の仲間を殺そうとしたんだ。ガルフがあんな傷を負ったんだ。まだその借りを返せていない。俺は自分の体に鞭を打ち、立ち上がらせる。
木々の間から魔獣が姿を現す。魔獣は血を流し、ボロボロな俺を見て久しぶりに歪んだ笑顔を見せる。
「…舐めるなよバケモノ。お前がガルフを…皆を殺そうとした借り…返してもらうぞ!」
俺はナイフの刃先を魔獣へと向ける。しかし魔獣はこちらを舐めた態度でゆっくりと1歩ずつ近づいてくる。そのような態度になるのも無理はない。何故なら今の俺は虫の息同然の状態だからだ。ナイフを構え、立ってはいるものの呼吸はとても荒く、顔、腕、体の様々な箇所から血が流れているのだ。
魔獣との距離が縮まる。体力、魔力共に残っているのは僅かという絶望的な状況の中、俺は呼吸を整え、そして魔力装に流していた魔力を止める。
「……グルァ?」
こちらに近づいてきていた魔獣が違和感を感じ、その歩みを一度止める。しかしこちらを鋭い目で一瞥した後、邪悪な笑みを深め、再びこちらへと歩き始める。おそらく俺の体を覆っていた魔力の反応が消えたことに疑問を覚えたのだろう。だが俺はもう瀕死の状態。そんな状況で魔力の反応が消えれば俺にはもう戦う力が残っていない、そう考える。
そして油断する。ボロボロの体の俺にはもう反撃するための力はないと確信する。
…まだだ…もう少し…
こちらの反応を楽しむかのように悠々とした足取りでこちらに向かってくる魔獣。その表情は愉悦に満ち満ちている。
……まだ…あと少し……今!!
「…グルァ!?!?!?」
魔獣の表情が一変する。突如として魔獣の顔に向かって一筋の青白い光が凄まじい速度で迫る。その光とぶつかる直前、魔獣はなんとか顔を逸らして回避する。しかし、その光とすれ違った次の瞬間。
「グルアアアアアアアア!!!」
魔獣の左の首と肩の付け根から鮮やかな赤色をした血が吹き出す。魔獣は突然発生した痛みに声を上げ、左肩を庇うように傷口に右手を当てる。
「グルアアア!!!」
しかしその直後、バチバチという音が背後から近づき、すれ違う。すると今度は隙だらけだった右の脇腹の部分から血が噴き出す。
「…グラアアアアア!!!」
魔獣は困惑と強烈な痛みの中、三度こちらへと向かってきたバチバチッという音の方向に、大きく息を吸い森中にこだまするほどの大きさで叫ぶ。魔獣は下がっていた視線を上げ、身体を走る痛みのせいでずれたピントを合わせる。
「さっきまでの余裕はどうした?ほら、かかってこいよ、バケモノ。」
魔獣が捉えたのは青白く光る稲妻に身を包み、不敵な笑みを浮かべる黒髪の少年の姿だった。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




