バケモノ 上
後で修正するかもです。
皆さん良いお年を!!(激遅)
「グルルルァ….」
声を唸らせながらこちらの様子を窺う化け物に足が震え呼吸が浅くなっていく。
恐怖のせいで力が抜け一度手からナイフがすり抜けかけるも、拳が白くなるほどに力を込め何とか戦闘出来るような姿勢を保ち続ける。
「…..何なの……こいつ….あっ!」
ラルトが恐怖の中無意識のうちに後退りする。しかし今までに感じたことのない禍々しい気配のせいで碌に力が入っていなかった足は、自分の体重に耐えきれずそのまま尻餅をついてしまう。
尻餅をついてしまうのも無理はない。3mはあるだろう巨躯、口、首元にベッタリとついている血、そして白銀の体毛と、とても対照的などす黒い血管のような何かが体の至る所に浮き出ているのである。さらに今まで見てきた魔獣の中で唯一、人間のように綺麗に二本足で立っているのも異常さを感じさせる。
「ってて….……ひっ!!!」
尻餅をつき一度閉ざした瞼を開いたラルトは純度の高い恐怖の声を漏らす。
彼、ラルトの視界が捉えたものはニタァと口をどこか嬉しそうに歪ませた白銀の怪物の姿だった。
そして次の瞬間周囲に風が起こる。俺はその風のせいで目を閉じることになる。慌てて魔獣の居た場所に目線を戻すも、既に魔獣の姿はそこには無かった。じゃああいつはどこに行ったのか。
その疑問が脳をよぎったとほぼ同時に脳内で警鐘が響き渡る。
「い、いやああああああ!!!!」
俺は体を慌てて声のする方へ向ける。そう、ラルトの目の前に魔獣が仁王立ちしていたのだ。おそらくラルトの表情を見て楽しんでいるのだろう、先ほどよりも嬉しそうな表情を浮かべている。そして余興は済んだと言わんばかりに腕を振り上げその鋭い爪で切り裂こうとする。
「ラルト!!!!!」
まずい!!
俺は魔力を脚部に最大限込める。
間に合うかどうか分からないが間に合わせるしか無い。限界まで強化した足で地面を思い切り踏み込み、ラルトと魔獣の間に割り込もうとしたちょうどその時である。
「ラルトオオオ!!!…..ぐっ!….あああああああああ!!!」
俺よりもラルトに近いところに位置していたガルフがラルトの前に飛び込んできたのだ。
ガルフはラルトを抱きしめ、飛び込んだ勢いのままその場を離れようとする。
しかし、僅かに遅かった。ラルトめがけて振り下ろされた魔獣の爪がガルフの左半身を抉り取る。
背中から伝わる痛みに今まで聞いたことのないガルフの叫び声が響き渡る。
「っ!!このっ!!!」
俺は思い切り地面を踏み込み、隙だらけの魔獣の横っ腹目掛けて渾身の蹴りをお見舞いしようとする。そんな俺に気付いた魔獣が防御の姿勢をとる。しかし俺の最大出力の蹴りに耐えることができず、魔獣はものすごい勢いで森の中へ吹き飛んでいった。
「ガルフ!!!!」
俺は魔獣が吹き飛んだのを見て、倒れているガルフの方へと慌てて駆け寄る。左肩から背中、そして腰の部分にかけて大きな傷が出来ている。悪いことにその傷はとても深く、湧き水のごとく真っ赤な血がドバドバと溢れていた。おそらく数分後には死んでしまうとわかるほどの重態だ。
「ガルフさん!!ガルフさん!!!…….僕のせいで…..こんな….こんなっ…..」
「旦那!!ガルフの旦那っ!!!しっかりしてください!!旦那っ!!!」
倒れるガルフを前にラルトとヴァーレが今にも泣き出しそうな声を上げる。特にラルトは自分のせいでガルフに傷を負わせたと思っているため、動揺の仕方がヴァーレよりも凄まじい。
くそっ…..間に合ってくれ…..頼む…..!!!
俺はガルフが受けた傷に両手をかざして回復魔法を行使する。
こんな大きな傷に回復魔法を使うのは初めてであり、予想以上の魔力が持っていかれ、額に脂汗が滲む。
お願いっ…..間に合って!!!
ガルフが死んでしまうかもしれないという恐怖の中、無我夢中で魔力を流し続ける。
しばらくすると俺の願いが届いたのか、ガルフの受けた傷が見る見るうちに塞がっていく。
このまま続けていけば必ず助けられる。そう確信し、胸を撫で降ろした時である。ガサガサと草が擦れる音と、ドシン、ドシンという足音が近づいてくるのが分かる。
「グルァ…..」
先ほど蹴り飛ばした魔獣が先ほどとは別の類の笑顔を浮かべながらこちらに歩いてきた。その魔獣の目線は完全に俺の方を向いており、まるで遊び相手が見つかって嬉しいというような目をしていた。この隙だらけの状況でも襲ってこないのは俺と戦うことを欲しているからなのだと理解する。
「ラルト、ヴァーレ…..ガルフを連れて逃げて。」
「っ!何言ってるのクロ…..ダメだよ!!逃げなきゃ….あいつに勝てるはずないよ!!!」
「……ヴァーレ、ラルトとガルフのことお願いね。」
「….…….分かったっす。…..死なないでくださいね、坊。」
「分かってる。ありがとね、ヴァーレ。」
苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見つめるヴァーレに微笑みながら頷く。
俺の顔を見た後ヴァーレは倒れているガルフを肩を貸すようにして何とか動かせるようにする。
魔獣がすぐに襲ってこなかったこともあって傷口を塞ぐことはできたので何とかなるだろう。問題は….
「クロっ!!ダメ……..死んじゃうよ!!!」
鬼気迫る表情でこちらを見つめるラルトの方だ。
ラルトは、目の前でガルフが致命傷を負ったこともあり俺が戦うことを必死に止めようとしてくる。
その証拠に俺の腕をがっしりと掴んでいる。
「…..ラルト、大丈夫だから。….ここは俺に任せて。」
ラルトの腕を離し、大丈夫だと笑いながら告げ、立ち上がる。
「ダメだよ!!!そんなこと絶対にダメ!!!ほら….クロ…..ちょ!!離してヴァーレ!!!」
魔獣の方に向けていた視線をちらりと向けるとヴァーレが左脇にラルトを抱えている様子が見えた。
ラルトはジタバタと手足を動かし抵抗するも、大人と子供では力の差は天と地ほどの差があるため抜け出すことはできない。
「坊……生きて帰ってくださいね…後こんな役、もう絶対にしないっすからね!!」
そう言い残してヴァーレはガルフとラルトを抱えながら歩き始める。
「クロ!…..クロ!!ヴァーレ、離して!!クロが……クロがっ!!!」
「大人しくしてくださいラルト!!!こっちの魔力にも限界があるんすから!!」
「クロ……..クロっ!!!!」
ごめん、ラルト。これしか皆が助かる方法が分からなかったんだ。
ヴァーレ達の姿が見えなくなったのを確認し、心の中でラルトに謝罪する。
ヴァーレもありがとね、こんなわがまま聞いてくれて。
続けてヴァーレに感謝の言葉を告げる。
そして大きく深呼吸をしてから、目の前の魔獣に向けて言葉を放つ。
「行くぜバケモノ。仲間を殺そうとした事、後悔させてやるよ!」
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




