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静かな森

遅くなってしまいました….ユルチテ

クロウフ様とリーナ様と会した次の日、俺たちはいつもの如く魔獣狩りのため森へと出向いた。

昨日起こったことは奇跡のようなものでこれからまたあのようなことが起こることはないんだろうなと理解はしているものの、一度楽しい思い出ができ、さらにそれが大きいものであるほど日常に戻った時に感じる寂寥感や喪失感といったものは大きい。俺はいつも通りに振る舞おうとはしているものの心ここにあらずといった感じだ。周りに頼れる仲間がいるのに贅沢な悩みだなとは思っているがどうしてもこの寂しさのようなものを振り払いきれずにいた。


「クロー!そっち行ったよ!!」



「へ?あ、うん!わかった!」


ぼーっとしていた俺はラルトの声を聞いてハッとする。俺の視界に凄まじい勢いで走ってくるマスルディアが映る。

戦闘中に何をぼけっとしているんだと頭を振って無理矢理にでも意識を切り替える。


マスルディアは筋肉が異常に発達した鹿型の魔獣である。その筋肉を十分に活かして凄まじい速さで走り、その強靭な足から繰り出される蹴りは人間なら一撃で屠れるほどの威力を誇る厄介極まりない魔獣である。


俺はマスルディアとぶつかるギリギリのところで身を逸らして回避し、隙だらけの横腹に蹴りを加える。

マスルディアは俺の蹴りの衝撃により体勢を崩しそのまま地面の上に寝転がる形になる。

俺はすぐさま地面を蹴って距離を詰め、首元にナイフを突き刺す。

ふぅと一息をつきマスルディアの首からナイフを抜く。


「お疲れ様ー。それと大丈夫?クロ、なんかぼーっとしてたみたいだけど….もしかして熱でもある?…んー熱はなさそうかなー」


こちらに歩いてきたラルトが今日の俺がいつもと違うことに気づき、おでこをくっつけて熱を測る。


「うん、大丈夫だよラルト。心配してくれてありがとね。」


「任せて!僕はクロよりも年上だからね!それとあんまり無理はしないでね?」


「わかった。ありがとね。」


「よしそれじゃ解体始めよっか!」


年上アピールをしながら励ましてくるラルトに思わず笑みが溢れる。

ラルトは普段から何かしらで俺の面倒を見てくれている。自分1人でも出来ることの方が多いのだがラルトの優しさを無下にするつもりはない。むしろウェルカムである。でもまぁ時々面倒くさそうなことだったり出来るかどうか分からない難しいことに関しては俺に任せた方がいいと分かっているのかすぐに投げてくるのだが。


俺はラルトと一緒に解体作業に入る前に一応周囲に魔物がいないか探知魔法で調べる。

えーと反応は….近くに人が2人と魔獣が1匹…多分ガルフ達だな。よし大丈夫そうだな。


今俺たちは二手に分かれて行動している。というのも今日の森は普段とは違って魔獣の反応が少ないのだ。

普段ならもう少し数がいるし群れとも遭遇したりするのだが今日は1匹2匹が距離を置いてちらほらといる程度。

1匹なら2人でなんとか対処できるしそっちの方が効率が良いだろうというガルフの考えのもとこうして別行動をとりながら狩りをしているというわけだ。


「それにしても今日は森が静かだよねー。クロもそう思わない?昨日のホワイトウルフと言いなんか怖いよねー。」


作業を進めながらラルトが今の森についての話をする。ラルトも今日の森に対しては違和感を感じているらしい。


「だね。さっきも周りを調べたけどほとんどいなかったし。」


「今日はなるべく早く終わらせて帰りたいなー」


「でもその肝心の魔獣がいなんだよね。」


「そうだった…」


そこからもお喋りを挟みながら手を動かしていると足音がこちらに近づいてくるのが聞こえる。


「お、そっちも終わってるな。怪我は無かったか?」


「あ、ガルフさん!うん!僕もクロも怪我してないよ!」


「お帰りガルフ。そっちも怪我はない?それとヴァーレは?」


「おう、大丈夫だ。それとヴァーレなら….」


「はあ….やっと着いた…..旦那、これ絶対1人で持つ量じゃないですよ….」


「あん?ジャンケンで決めませんか?とか言ってきたのお前だろ。」


いやジャンケンで決めたんかい。しかもヴァーレから提案したんかい。

ガルフに持たされていたなら流石に可哀想だからやめてあげなって言おうと思っていたが、自分から仕掛けたジャンケンで負けたなら自業自得なため擁護のしようがない。


「えーと…まぁお疲れヴァーレ。」


「坊もお疲れ様っす。怪我無さそうで何よりっす。」


2人と合流した俺とラルトはまだ少しだけ残っていた作業をテキパキと進めて終わらせる。

そこからは小休憩を挟みながら今後の動きについての話し合いが始まった。


「なぁ、今日の森、やけに静かじゃないか?」


「あ、僕とクロもさっきその話してましたよ。」


「こんなに魔獣がいないなんて珍しいっすよねー。」


今日の森が普段とは違うことに違和感を感じているのは全員同じだったらしい。


「….なんか嫌な予感すんだよなぁ….よし、クロ周りに魔獣がいないか調べてくれ。今日は早めに切り上げたい。ちゃっちゃと終わらせるぞ。」


「わかった。」


「よしじゃあ行くぞ。いつも以上に気抜くなよ。」


ガルフの指示のもと俺たちはいつもよりも速い速度で魔獣を探し回った。

俺も何度も探知魔法で魔獣がいないか調べたが相変わらず1匹2匹が点在しているくらいだった。

さらに対峙した魔獣達のほとんどがどこか焦っているような気がしてならなかった。

戦闘時も魔獣達は一心不乱に突っ込んできたり、どこか息が荒かったりと様子がおかしい。

なんか昨日のホワイトウルフ達もこんな感じだったような…..スゥー……..あの、嫌な予感がするのでもう帰っても良いですかね?


「……ん?」


「どうしたクロ、何かあったか?」


移動し始めてから少し経った後、探知魔法を使って周囲を調べると今いるところから少し離れたところに多くの魔獣の反応を感知する。それだけなら魔獣が群れで動いているだけだったのだが気掛かりなことにその中に1つだけ反応がおかしい魔獣がいる。今までにない反応だ。魔獣であるのは確かなんだけどな……


「あっちの方に多分群れがいる。けどなんか1匹だけ変な奴がいる。」


「変なやつだと?」


「うん、今までの魔獣とは反応がおかしい。なんかこう….気持ち悪い感じ。」


ガルフに探知魔法に映ったことを話す。ガルフと話して自分でもようやく腑に落ちたがその1つの反応は気持ち悪いのだ。それに通常の反応よりも禍々しさのようなものを感じる。


「……クロ、ここからどのくらいの距離だ?」


「んーと、そう遠くないかな。歩いて10分掛からない程度だと思う。」


「……そうか。よしお前ら、反対の方行くぞ。クロの言う反応がおかしい奴から出来るだけ距離を取る。俺の感でしかないが嫌な予感がする。」


俺、ラルト、ヴァーレの3人はその提案に頷き、移動を始める。触らぬ神に祟りなしというやつだ。

俺の危険レーダー(適当)がずっと反応しているためこれは絶対無視したほうが良い。興味本位で近づいて命を落とすとか俺絶対嫌だもん。……..念のためもう一度探知魔法使って見てみるか。どれどれ…..


「は!?!?」


「お、おいどうしたクロ!?」


「どうしたの?クロ?」


「ぼ、坊?」


「やばい!!あの反応がこっち来てる!!」


運が良いのか悪いのか、ちょっと怖くなったからという理由で使った探知魔法でわかったのは群れで行動していたであろう魔獣達の反応が全て消えていたこと、そしてあの反応がこちらの方に一直線で向かってきていることだった。


「!?くそっ、まずいな….行くぞ!!」


ガルフの声と共に俺たちは走り出す。しかし、時すでに遅し。後方からはすでに全速力で駆けてくる何かの音が聞こえ始めておりその音から察するにもう振り切ることはできない。そのことを理解した俺とガルフは逃げるのではなく戦うことにする。出来るだけ戦いやすそうなところへと向かい迎撃の態勢をとる。


「ここで迎え撃つ。相手はよく分からん魔獣だ、決して無理はするなよ。」


ガルフがそう言って戦闘体制に入る。それに合わせて俺たちも各々武器を手に取り音のする方を警戒する。

音の発生源である魔獣はこちらが止まったのを察知してか徐々に速度を落としていく。

そして俺たちのいる場所にのそのそと余裕を持った足取りで歩いてきて、その姿を見せる。


「な…..なんだこいつは….」


ガルフが呆然とした表情で姿を表した魔獣を見つめる。ラルトとヴァーレは言葉を失い戦慄の表情を浮かべる。


「はは….何だよこいつ」


かく言う俺もすでに足が笑っており、無意識の内に乾いた笑みがこぼれてしまう。


「グルルルァ!!」


その魔獣は白銀の毛に身を包み、体の至る所に血管のようなどす黒い線が走っている。つい数分前に着いたであろう返り血もそのままに新たな獲物を見つけたことの喜びで口元を歪ませる2本足で立つ狼。

バケモノ。魔獣ではあるがその括りから逸脱しかけているように見えるそいつにはぴったりの言葉だった。

この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかめっちゃ強そうなやつが出てきましたね…。 クロたちに危機…なんてこった! [一言] 私の推しはスキンヘッドさんです。今更ですが。
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