別れと違和感
間に合いました。いえい
楽しい時間ほどあっという間に過ぎるもので話に夢中になっていると馬車の速度が段々落ちていき、停止する。
「む?もう着いたのか?」
馬車が止まったことでクロウフ様は少し名残惜しそうな表情で外の景色を一瞥する。
俺も同様に窓の方を見ると俺たちがいつも過ごしているオンボロ屋敷が写っていた。
何故この場所を知っていたのか一瞬疑問に思ったがおそらくはラルト達が道案内をしていたのだろう。
御者や騎士の人たちと荷物を置きながら楽しそうに話をしていた。
「もう着いたの?お父様?」
「そうだね、ガルフとクロ君とはここでお別れだね。」
「むぅ….もうちょっとクロ君とお話ししたかったです….」
頬を膨らませ、あからさまに不機嫌そうな表情をするリーナ様に俺はどうしようもなく苦笑を浮かべる。
馬車でした話の中で俺とリーナ様が同い年だと判明した。リーナ様は公爵家の御令嬢ということもあり中々同年代の友達が出来ないらしい。そこで俺から話を切り出し、色々とお喋りをして行くうちに仲良くなったと言う訳である。
もちろん最初の方は多少ギクシャクしてたが森で見たものなどの話をするととても興味津々に聞いてくれた。
中々外に出る機会も無いため俺の話はとても面白かったらしい。
そのお返しにリーナ様は普段はどんな勉強をしているのかなどについて話してくれた。
出来れば俺ももう少し話をしたかったし聞きたかったなぁ….
しばらくして馬車から降りるとこちらに向かって歩いてくる一つの人影のが見える。
「ったく….遅いぞお前ら…奴隷のくせして生意気なん..…って貴族様!?」
酒でも飲んでいたのか顔を赤くしふらついた足取りでこちらに歩いてきていた兵士はクロウフ様の姿を見ると大慌てで背筋を正す。
「君たちはフレーザー伯爵の兵士であっているかな?」
「そ、そうでございます。そ、そこにいる奴隷達の管理を任されております。」
クロウフ様の質問に落ち着かない様子で兵士の人が答える。
おそらく彼の今の心の中は何故こんなところに貴族様がいるのかという疑問と愚痴で埋め尽くされているだろう。
兵士さん、心中お察しします。
「すまないね、彼らを私の都合で借りていたよ。彼らの到着が遅れたことに関して彼らを咎めないでやってくれ。」
「は、はい。もちろんでございます….」
クロウフ様から直々のお達しにより俺たちが何か罰を受けるようなことは無くなった。
す、すごい…貴族みたいだ….いや貴族だったわ….
つい先ほどまでのクロウフ様はただの家族が大好きないいお父さんという印象が強かったため貴族然とした態度に驚きを隠せなかった。
「それと私達は今から君の主人のところに向かうんだもしよかったら案内してくれないかい?」
「は、はい!もちろんでございます!!」
兵士は大きな声でクロウフ様の提案を受け入れる。元気よく返事はしたもののその表情はとても固い。
彼のメンタルと胃の心配をしながら俺はクロウフ様達の方に向き直り別れの挨拶をする。
「クロウフ様、リーナ様。短い時間でしたがありがとうございました。とても楽しいお話ありがとうございました」
「いやいや、前にも言ったが感謝すべきはこちらの方だ。クロ君、私のそしてリーナの命を救ってくれてありがとう。この恩はいずれ必ず返させてもらおう。本当にありがとう。」
感謝の言葉と共に手を差し出されたため俺はその手を硬く握り握手を交わす。
「クロ君!また今度お話聞かせてね!」
「はい、リーナ様。またいつか。」
リーナ様の屈託のない笑顔に呼応するように俺も笑みをこぼす。
でもまぁ今後この2人と会って話をすることは多分ないんだろうなぁ。
馬車を見送りながらそんなことを考える。自分は奴隷であっちは貴族。本来ならこうやって会話することなんて出来ないほどに身分差があり過ぎる。だからリーナ様の言うまた今度はおそらく来ない。
まぁどうせ数年後には俺のことなんて忘れてるだろうしそんなに気にするほどでもないか。
「お疲れクロー、どうだった?馬車の中は!」
馬車が視界から消えたところで後ろからラルトが抱きついてくる。
俺のことが心配だったのかそれとも俺に助け舟を出さなかったことを誤魔化すためかは知らないがいつもよりも距離が近い。
「すごい快適だったよ。それにクロウフ様達とも楽しく話せたし。」
「そっかそっかそれはよかったー….えーと….怒ってない….よね?」
どうやら後者だったらしい。不安な表情でこちらを見つめてくる。
まあ過ぎたことではあるしむしろ楽しい時間を過ごせたから逆に感謝したいほどではあるんですけどね。
「怒ってないよ、ラルトも荷物持ってくれてありがとね。」
「任せて!あれくらいなら余裕だよ!!」
俺が怒っていないのが分かったためか先ほどまでの不安な表情から一転して明るい表情を浮かべたまま、胸を反らし自信満々に言うラルトに思わず笑顔が溢れる。
「よし、そろそろ中入るか。荷物はまぁ見えるところにまとめて置いときゃいいだろ。」
ガルフの指示のもと俺たちは荷物をまとめて家の中に入り、夕食を取ることになった。
その際に馬車での出来事や乗り心地など色々ラルトに聞かれたためその質問に答えながらご飯を食べ進めていく。
「あ!そういえば旦那、気になってたんですけどホワイトウルフってあんな所に普通いるもんなんですか?」
一通り馬車での話が終わった後、ヴァーレも今日の出来事に異常性を感じたらしくガルフに聞く。
「いや、普通ならいないな。俺もそれが気になってたんだよな….クロ、戦ってる時何か起きたりしたか?」
馬車の中でも分からないと言っていたが本当に分からないらしい。
ガルフに聞かれ俺はパンを咀嚼しながら記憶を掘り起こしていく。
ホワイトウルフとの戦闘を思い返すも特に普段と変わらない感じだったような….いや….待てよ….?
「なんか….周りに魔獣は居なかったのに焦ってたっていうか….そんな気が…したかな」
普通ホワイトウルフのようにそこそこ知性がある魔獣は勝てないと思った相手だったり、身の危険を感じたときはもっと慎重になったり逃げたりする。それなのに逃げることは選択肢に無いかの如く真っ直ぐこっちに向かってきたのにはどこか違和感を感じる。
「焦り….か….」
俺の言葉を聞いてガルフが顎に手を当て少し俯く。
「わっかんねぇなぁ…..まぁ明日狩りに行くときはいつもより警戒していくか。」
数秒の間その体勢のままでいたものの結論が出なかったのか後頭部を掻きながらそう言うガルフに俺は頷く。
ラルトとヴァーレもガルフの言葉を聞いて賛成の意を口に出す。
何もなければ良いんだけどな….
何か不穏なものを感じる中、明日の狩りがいつもと同じように終わるように願うのだった。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




