馬車の中で
遅くなってしまい申し訳ございません!!
次回は土曜か日曜に出ます!
「ああ、あとよかったらクロ君も一緒にどうだい?」
.....え?今なんて言いました????
肩に担ごうとしていた荷物が手からするりと抜け落ちそのまますとんと落下する。
俺はクロウフ様の方に向き直り聞き笑顔を浮かべて聞き間違いじゃないかを確認する。
「すみません、良く聞こえなかったのでもう一度お願いしてもいいですか?」
「よかったらクロ君も馬車に乗って一緒に話さないかい?」
あー...良かった聞き間違いじゃなかったわ....いや良くないけどね?
自分の聴力が未だ健在なことは確認できたが数分後の俺の未来が大丈夫じゃなさそうなことも確認できてしまった。
別に何もされないのは知ってるよ?でも気まずいじゃん?普通にガルフと二人で話していたらいいと思うんですよ。
俺は来たる未来を変えるべく子供の特権とも言える可愛らしい(当社比)笑みを携えて言う。
「僕のことは気にしないで大丈夫です。どうぞガルフとゆっくりお話ししてください。」
「いや、気を使っているわけではないよ。単に君とも話したかっただけさ。」
…..断りずらくなっちゃったんですけどー.....
やんわり断る難易度が一気に上昇する。
俺は頭をフル回転させ、相手の機嫌を損なわずに断れる返事を考える。
俺は限られた僅かな時間の中、最善の答えを見つけるべく脳細胞に最大の負荷をかけてついに光明を得る。
「僕ガルフの分の荷物を持たないといけないので....」
「あ、それなら自分が持つので大丈夫っすよ。」
後ろの方から大きめの荷物を背負ったヴァーレが割って入る。
自分、いいことしましたと言わんばかりの表情を浮かべ、親指を立てるヴァーレ。
いやそういうことじゃないんですけどー.....むしろ逆なんですけどー......
ら、ラルトなら何か言ってくれるんじゃ!
助けを求めるようにラルトの方に視線を向ける。
「じゃあ僕はクロの分でも持とうかなー」
その視線に気づいてラルトはいそいそと荷物を持ちヴァーレと話をしながら背を向ける。
その際に一瞬だけこちらを振り向き「ごめんね」と口を動かしていた。
おのれラルトめ....
ラルトの背中を恨めしそうに見つめるもののこれでクロウフ様の提案を断る算段が無くなってしまった。
「....ぜ、ぜひご一緒させてください...」
どうしようもなくなった俺はぎこちない笑みを浮かべながらクロウフ様の提案を承諾した。
ガルフの背中についていき馬車に乗り込むと先ほども見かけた顔がそこにはあった。
そう、クロウフ様の娘さんである。
馬車に乗りその子と目が合うも少し前と同じように一瞬で目をそらされてしまう。
あの....気まずいんでやっぱり俺降りてもいいですかね?....
しかしそんなことは許さんとばかりに馬車は動き出してしまう。
あ、これもう無理なやつですね。
馬車が動いてからは馬車独特の揺れを感じながら窓に映る景色を眺めていた。隣からはガルフがどうして今奴隷になっているのかとかどうやって過ごしているのかなど根掘り葉掘り質問されていた。そりゃ既知の人がいつの間にか奴隷になってたらそんな反応しますよね。
俺は横で行われている問答に耳を傾けつつも視界を流れる景色から目を離すことはなかった。馬車に乗るのは生まれて初めての経験であるし次々に横へ流れていく景色を見るのは元の世界の電車以来の体験なので声には出さないもののとても興奮していた。
「それにしても先ほど出た魔獣はどのくらい強いんだい?私の騎士たちがよほど苦戦していたし相当強いのではないか?」
「そうですね..あれはホワイトウルフっていうCランクの魔獣です。本来ならもっと奥の方に住んでるはずなんですが...」
二人の会話の内容が耳に入り窓の方を向いていた視線を一度そちらの方に向ける。
ガルフも俺と同じくホワイトウルフが出没したことに疑問を抱いているらしい。
「正直初めてのことなんで自分にもよくわからないです。すみません、クロウフ様。」
「そんなことで謝らないでくれガルフ、それにクロ君も。私たちは助けられた身だ。恩人たちに頭を下げさせる立場にない。というかむしろ頭を下げなければいけないのはこっちの方なのだ。」
頭を下げるガルフを見て俺も同じように頭を下げる、がクロウフ様は頭を下げるのはやめてくれと慌てた様子で手を横に振る。ガルフが頭を上げるのを横目で見てから俺も頭を上げる。
それにしてもガルフもホワイトウルフがあんなところにいた理由知らないのか….後で聞こうと思ってたのに….
「あとクロウフ様さっきから気になっていたんですが隣のお嬢さんは...」
「ああ、色々聞きたいことがありすぎて紹介が遅れてしまった、すまないね。この子は私の娘の...」
「リ、リーナ・ベルガーです。い、以後お見知りおきを...」
クロウフ様の言葉に続いて隣のお嬢様、リーナ様が自分の名前を言って軽くお辞儀をする。
初めて声を聴いたがとても澄んだ声をしている。
「ご丁寧にありがとうございます、リーナ様。もうご存じかとは思いますが俺はガルフって言います。よろしくお願いします。ほれ、クロも挨拶しろ。」
「初めまして、クロって言います。よろしくお願いします。」
ガルフに促されるまま頭を下げる。相手は俺と同じくらいの年齢だろうが貴族であることには変わりないので深々とお辞儀する。
「あ、あの!あ、頭を上げて下さい!あなたは命の恩人ですから!!」
リーナ様はそれを見て手を横にブンブンと振り、動揺を露わにしながら頭を上げるようにお願いする。
先ほどより大きい声を出されて少し驚いたがこのまま頭を下げ続けているのはかわいそうなのですぐさま頭を上げる。
普段からこうやって頭を下げられ慣れていないのかリーナ様はほっとした表情をしている。
「それにしても娘さん...リーナ様はとても奥様に似ていてお綺麗ですね。それにとても優しい心もお持ちのようで」
「ガルフもそう思うか!そうなんだよ!!リーナはローゼに似てとても綺麗でかわいいんだ!!それでいて優しさに満ちている!!天使のような子なんだよ!!リーナは!!」
へぇこの人の奥さんローゼ様って言うのか….と言うかテンション高いなおい。
娘のことを褒められてとても嬉しそうに話すクロウフ様とは対照的にリーナ様は恥ずかしそうにしている。
ホントにこの人娘のこと好きなんですねというか家族のことが好きって言った方が正しいかもしれない。
「か、変わらず仲睦まじそうで何よりです。」
クロウフ様の熱量にガルフも少し苦笑いを浮かべる。
昔からあんな感じだったのかと頭の中で考えながら俺はクロウフ様のことを見ていると先ほどよりも少し真剣な眼差しでこちらを見つめ返してくる。
「ところでクロ君、つかぬ事聞くがその髪の毛の色は親譲りだったりするのかい?」
そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったので頭の中が?で埋め尽くされる。
いやまぁ確かに珍しい髪色なんだろうけどなんでそんなことを聞くんだろうこの人...
「えっと...よくわかんないです...気が付いたらその....牢屋にいたので...」
誤魔化そうかと一瞬迷ったがありのままのことを話すことにした。ここで噓をついて悪い印象を持たれたくなかったし少ししか話していないがクロウフ様は良い人なので特に取り繕う必要を感じなかったからだ。
「…..そう...だったのか...すまない、こんなことを聞いて....」
「あ、い、いえ!!全然気にしないでください!!ガルフたちといるのは楽しいので..その...全然気に病む必要はないです!!」
……き、気まずい….
俺の言葉を聞いてクロウフ様が哀しげな目でこちらを見つめる。リーナ様も俺の境遇を慮ってか顔を曇らせている。
自分にとっては特別悲しいことではないと言うか自分の出生に関しては記憶がないため2人のこちらを憐れむ様な表情を見ると気まずさと同時に申し訳なさを感じる。いや本当にこの空気どうしよう…..
夕暮れが窓の外から差し込み周囲をオレンジ色に染め上げているのに馬車の中には曇天のような重さが充満していた。
沈黙が続く。先ほどまで饒舌だったクロウフ様もすっかり口を閉ざしていた。
せっかく誘われたのに自分のせいで気を悪くさせてしまい、さらに先ほどまで形成されていた楽しい空気を完全に俺がぶち壊した形になっている。このままでは非常にまずい。
「あ、あの!クロウフ様!!」
「ど、どうしたのかね?クロ君。」
俺はのしかかるこの空気を跳ね返すように大きな声を出してクロウフ様の名を呼ぶ。
まさか俺から声がかかるとは思ってもいなかったのかクロウフ様は驚きを顔に浮かべたまま返事をする。
「あの…もしよかったらなんですがその……えと、街がどんな感じなのかとか…..色々教えて欲しい….です…」
この空気をなんとかするべくクロウフ様に一つお願いをする。なぜ街について聞きたいかと言うとこの異世界に来てからと言うものいったことのある場所が森しかなく単純にどんな様子なのか気になったからである。それにクロウフ様は貴族様だし色々なところにも行った事がありそうだからとても良い話題だと思う。
….にしても俺語彙力なさすぎだろおお!!!!
先ほどの自分の言葉の拙さを振り返り1人心の中で転がり回る。
もうちょっと伝わりやすく話せなかったか数秒前の俺….
脳内で1人反省会を開催しようとしていたその時
「…..ああ、もちろんだよ、クロ君!!何から聴きたいとかあるかい?」
僅かな沈黙の後、こちらのお願いを笑顔で快諾するクロウフ様。
笑顔を浮かべたクロウフ様を見て俺も笑顔が溢れる。リーナ様も息の詰まる空気感が霧散しどこかホッとしたような表情を浮かべている。
「えっと….そうですね…街の雰囲気がどんな感じか聞きたいです。後どんなお店があるのかとか…..」
「そうだなぁ…..基本的には….」
そこからは目的地に着くまで馬車の中は楽しそうな話し声と時折大きな笑い声が響き渡った。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




