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貴族(いい人)

俺はただ茫然と立ち尽くしていた、貴族の男性と仲良さそうに話すガルフの姿を見て。


「.....ねぇクロ...ガルフさんって本当に何者なの?」


「こっちが聞きたいよ。」


呼吸が整ったのか僕の隣でガルフを見ているラルトも同じことを思っているようだ。

騎士だったりしたのか?いやでも冒険者って言ってたしな....

ガルフと貴族の接点が全く見つからず脳内で一人で唸っているとこちらの様子に気が付いた貴族の男性がガルフに何かを話し、こちらの方に近づいてくる。

ガルフと良好な関係を築いているため何かされるとかはないと思うが緊張のせいか体が強張る。

ラルトも不安なのか俺の服をつまみ固い表情をしている。


「怖がらなくても大丈夫だよ、ガルフの仲間に変なことはしないさ。」


貴族の男性はそう言いながら手のひらを広げて軽く上にあげ自分は何もしないというアピールをしながら優しく微笑む。予想はしていたが相手の柔らかい態度で変に入っていた力が抜ける。

ラルトも先ほどより緊張が解けた様子だ。まだ服はつまんでいるが。


「黒髪の君、先ほどは助けてくれてありがとう。君がいなかったら私たちは全員この場で死んでいたよ。」


「あ、いえ、あ、あれくらいなんてことないですから!大丈夫ですから!頭を上げてください!」


まさかここまで感謝されるとは思っていなかったのでこちらに向かって深々と頭を下げる貴族の男性に慌てて頭を上げるようにお願いする。しかしそんな俺の言葉とは逆に貴族の男性は数秒間の間しっかりと頭を下げて感謝の気持ちを伝えてから頭を上げる。


「あれくらいなんてことはない。君はあの魔獣を一人で倒したのだ。誇ってもいいことだ。」


「は、はい....」


「そういえば自己紹介をしていなかったね。私はクロウフ・ベルガーだ。ベルガー侯爵家の当主をやらせてもらっている。」


こうしゃくけ.....コウシャクケ.....侯爵家.....今侯爵家って言った!?!?

侯爵家ってめちゃめちゃえらいはずだよね!?え?E?えええええええええええ!?!?

表情に出さないようにするがどうしても目元に力が入り、瞬きの回数が異常なほどに増える。

脳がパニック状態になり、どうしたらいいかわからなくなっていた時くいくいと服が引っ張られる。


「ねぇクロ、こうしゃく?ってどのくらい偉いかわかる?」


「侯爵っていうのは確か上から2番目にえらい貴族だよ。」


「2番目!?」


相手に聞こえないよう耳元で小さく質問したラルトは俺の言葉を聞いて弛緩していた体に先ほど以上の力を込めてしまう。


貴族だけってだけでもすごいのにその中でも上から2番目にえらいって言われたらそうなるよね。

あっそうだ、返事しなきゃ。でもなんて呼ぼう?侯爵様?それだと固すぎるか....ガルフと同じように呼べば大丈夫....かな?よし、それでいこう。


「は、初めましてクロウフ様。おr...僕はクロって言います。」


「クロ君だね、よろしく。そして改めて先ほどはありがとう。」


俺の目の前に手が差し出される。


え、あのこの手は一体何ですかね。もしかして握手とかそういうのだったりします?僕奴隷ですよ?奴隷の手とか汚いと思うんですけど大丈夫ですか?


どうしようかと逡巡した後おずおずと手を伸ばすと今まで空中に固定されていた手が俺の手を迎えに来る。急に手を握られ体が棒のように固くなる。腕を軽く上下に振られるがその動きもぎこちない。


「すいませんクロウフ様。そいつ結構人見知りなんですよ。」


苦笑いを浮かべながらこちらに近づき助け船を出すガルフに俺は視線を向け心の中で土下座するほどの感謝をする。


「ふむ...娘と同じタイプだったか。それはすまないことをしたな。」


「あ、いえ!!全然!!気にしないでください...」


ガルフの言葉を聞いてか少し申し訳なさそうな表情をするクロウフ様に俺は慌てて返事をする。

この人本当に貴族なのか?おれの知ってる貴族じゃないんだが...


ガルフとは楽しそうに会話するし、奴隷で子供の俺にもこんなに丁寧に接してくれる。

侯爵って聞いたからもっと傲慢な感じの人かなとか思っていたがそんなことはないらしい。

さてはこの人すごい良い人だな。


「そうだ、ガルフ。君たちは今フレーザー伯爵家のところにいるのだろう?そこまで一緒に行かないか?」


なんで知ってるんだろうと一瞬だけ考えたがさっき二人で話してたしその時にでも聞いたのだろうと納得する。どうするのだろうとガルフの方を見てみるとこちらの意見を聞こうとしていたのかバッチリと目が合う。自分だけで決めるのではなく他の仲間の意見を聞いてから決めるというところにガルフらしいなと思うと同時にいい性格をしているから貴族の人にも好かれるんだろうなと思った。


「僕は一緒に行ってもいいと思うけどラルトとヴァーレはどう思う?」


「うーん...僕はどっちでもいいかなー。二人に任せるよ」


「自分もラルトと同じっす。」


隣にいるラルトもいつの間にか起き上がっていたヴァーレも大丈夫らしい。再びガルフに視線を戻すとこちらを向き一つ頷く。


「それじゃあご一緒させてもらいます。」


「そうか!!それでは行こうか!」


「あ!その...出発する前に魔獣の処理してもいいですか?....」


「あー、そういえば忘れてたわ。」


街の方に帰る前に倒したホワイトウルフをそのままにしていたのを思い出す。

初めて貴族の人....クロウフ様と話したことで頭からすっかり抜けていた。

どうやらガルフもすっかり忘れていたらしく頭を掻く。


「ああ、もちろんだ。むしろお願いしたいほどだよ。」


クロウフ様の了承を得られたためガルフ、ラルト、ヴァーレを連れてそこら中に転がっている死体を片付けていく。


「いやぁ...それにしてもさっきは緊張したよー.....特にクロは大変じゃなかった?」


黙々とホワイトウルフから魔石を取り出していると隣にいたラルトが質問してくる。


「まぁね.....初めて貴族の人と話したし。」


「だよねー、まさかこんなことになるとは思わなかったよー。でもあの人...えーと...クロウフ...様?すごいいい人そうだったよね!それに周りにいる人も悪い人いなさそうだし良かったよ!」


ほらっと周りを見るように促されたため顔を上にあげると怪我をしておらず動けそうな騎士の人たちもガルフやヴァーレとともに死体の片づけを手伝ってくれていた。

せっせと働く騎士たちを見て本当にいい人たちだと感心する。

やっぱりいい上司のもとにはいい部下が付くものなのかな...


その光景を眺めているとこの野ざらしにされた死体を撤去している現場にはとてもそぐわない服装をした少女がこちらをじーっと見ていた。どうしたのかと見つめ返すと次の瞬間には目をそらされてしまった。....これ嫌われてるやつですかね...いやさっき確か娘も人見知り的なこと言ってたし....

大丈夫な....はず....


「クロー?...ああ、あの女の子ね。綺麗だよねー。まるでお姫様みたいだよねー。」


中々作業に戻らない俺が気になったのか顔を上げたラルトが俺の視線の先にいるクロウフ様の娘さんを見て呟く。


「そうだね。でもあの子この光景を見て平気なのかな?」


「あー、確かに。」


ここは今ホワイトウルフの死体とそこから溢れた血で一杯になっている。普通の子供ならこの光景を見て具合が悪くなると思うのだが...

箱入り娘として育っているのならもしかしたら今の状況がよくわかっていないだけかもしれない、なんてことを考えながら止まっていた手を動かし始める。


その後はラルトと軽くおしゃべりをしながら作業を続け、騎士の人たちが手伝ってくれたおかげでいつもより早い時間で片付けを終えることが出来た。


「みんなお疲れ様。出来れば休憩を入れたいところなんだが、時間的にもう出発しないと門が閉まってしまう。皆もう少しだけ頑張ってもらえるかい?」


俺たちの手が止まったのを見てクロウフ様がそう声をかける。騎士の人たちはもちろんガルフたちも特に異論はないようなのでそのまま出発することになる。


「ああ、そうだガルフ。もしよかったら馬車に乗って少し話さないか?色々聞きたいこともあるし」


「え?ああ、はい。もちろん大丈夫です。.....でもいいんですか?」


突然のお誘いにガルフは騎士の人たちを見ながら困惑気味に了承する。自分のような奴隷が一緒に馬車に乗って大丈夫か心配しているらしい。


「ガルフなら大丈夫だよ。君は下手なことはしないって昔から知っているしね。」


「.....ならご一緒させていただきます。」


クロウフ様の言葉を聞いて少しうれしそうな表情をするガルフに笑顔を見せるクロウフ様。

そんな二人を見て俺も自然と笑みがこぼれる。


ガルフが信頼されてるのを見ると俺も自分のことのように嬉しくなりますねー

よーし俺、ガルフの分の荷物持つの頑張っちゃうぞー



「ああ、あとよかったらクロ君も一緒にどうだい?」


........今なんて言いました??

この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。

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