日常と非日常
そろそろヒロインちゃんが出ます。わあい^^
3年間で起こったことはもしかしたら閑話みたいな感じで書くかもです。
春、寒さを耐えるために葉を落としていた植物たちが、そして冬眠していた魔獣たちが皆活力を取り戻し、森に彩りと騒々しさが戻り始める季節。未だ残る僅かな肌寒さとそよ風が届ける温かさが混ざることで広がるとても心地よい空間の中、木の燃えるパチパチというリズムもアクセントもバラバラな音が森に響いていた。
「坊、肉焼けたっすよ。」
「うん、ありがとヴァーレ。」
俺はヴァーレから木の枝をナイフで整えた少し不格好な串を受け取る。その串には少しの焦げ目がついた肉汁が滴る魔獣の肉が刺さっている。それにかぶりついたとたんアツアツの肉汁と獣独特の匂いが口の中いっぱいに広がる。調味料の類はないので率直な感想はまずいわけではないが美味しいわけでもないが干し肉よりは断然おいしいというものだ。
俺は無言で租借を続ける。そんな俺を見てラルトはヴァーレに向かって足をばたつかせながら言う。
「ヴァーレー!僕の分はー?」
「ラルトの分はちょっと前に焼いたじゃないっすか。そろそろ自分も食べたいんで自分で焼いてくださいよ。」
「えーやだー。ほら早く焼いてよー」
「もう、しょうがないっすねぇ」
「やったー!ありがとね、ヴァーレ!」
ヴァーレをこき扱うラルトにそれを最終的には受け入れるヴァーレ、もはや見慣れた光景である。
「ラルトももう13なんですから自分でできるようにならないとダメっすよ?」
「もうじゃないですー、まだ13歳ですー」
「あと2年で大人になるからもうだと思うんだけど..」
「クロもヴァーレの味方するんだー!ひどーい!」
この世界に転生してから3年、俺は奴隷の身ではあるものの仲間とともに楽しい日々を過ごしていた。最初のころは地獄だと思っていたが住めば都という諺は間違っていなかったようだ。
肉を頬張りながら雑談に花を咲かせていると後ろの方から足音が近づいてくる。
「戻ったぞー。ヴァーレ、こいつも追加だ。」
「あ、ガルフさんお帰り!」
「お帰りガルフ。」
ガルフはそう言いながら肩に担いでいたホルノラビットの死体をどさっと地面に投げるように落とす。
「おかえりなさいっす旦那。そいつはこれ食べたらやりまーす。」
「頼んだ。しっかしクロの魔法は便利だな。ホントにこいつしかいなかったぞ。周りにもう数体はいるかと思ったんだがな。」
「でしょ?俺もすごい便利だと思ってるよ。」
3年間俺は魔力量の増加と属性魔法の練習を続けている合間に新たな魔法をいくつか発明したのである。そのうちの一つが探知魔法だ。この魔法はレーダーのように微細な魔力を数回連続で放射し敵の位置や場所を特定することができる。さらにこの魔法は俺の魔力に引っかかった対象が人間か魔獣かも区別することも可能だ。
弱点は二つあり一つ目は単純に魔力を多く使うこと。
そしてもう一つは魔力に敏感な魔獣には気づかれ、逆にこちらの位置がばれる可能性があるということだ。以前一度だけBランクのイアルバットという蝙蝠の魔獣に襲われた時に逆探知されたことがあったがそのときはさすがにびっくりしました。レーダーに迷いなく一直線でこっちに近づいてくる敵の姿は恐怖でした。
「ガルフさんもそう思うよねー。いやー4つの属性魔法が使えるだけでもすごいのにこんな魔法を使えるなんてホントにクロはすごいね!」
ラルトはえらいえらいといった感じで俺の頭を撫でる。年を重ねるにつれ段々と俺のことを弟のように扱い始めたのだ。だがそこまで悪い気はしない、むしろもっとやってくれてもいいのよ?
ちなみに俺の魔力量や使える属性魔法などはヴァーレたラルトにはもう話してある。ラルトはすごいね!と褒めるだけだったがヴァーレは目玉が飛び出るほどの表情で驚いていた。普通はそうなると思います。まんざらでもない表情で大人しくされるがままになっているとラルトが俺の髪を梳くようにして触り始める。
「また髪伸びてきたねクロ。明日とかに切っちゃおっか。」
「うん、そうする。お願いねラルト。」
「うん!任せて!」
自分の髪を少しいじりながらラルトの提案を快諾する。俺の返事を聞きラルトも自信たっぷりの表情で頷く。ラルトとともに行動するようになってから定期的にラルトに髪を切ってもらっている。
前までは一人で適当にやっていたのだがその姿を見たラルトが「僕がやってあげるよ!」と専属の美容師になってくれたのだ。その際に理由を聞いたが「髪色すごい珍しいから触ってみたいなっていうのとあと単純に見てて怖かったから」らしい。
髪を切るためのハサミなどなくナイフでやっていたからだろうが俺そんな見てられないほど危なっかしかったですかね...自分でもできるのにと最初は思っていたがラルトの腕が俺よりも確実に良いものだと気づいてからはずっとお願いしている。
「ラルトー、そろそろ焼けるっすよー」
「やったー!ありがとヴァーレ!」
「おう、ヴァーレそれが終わって早々で悪いんだがこれの解体も早めに頼むぞー」
「わかってますよ旦那。というか俺も肉食べたいんですけど,,,」
「ヴァーレの分は俺がやるよ。丁度食べ終わるし。」
「さっすが坊!ありがとうございます!」
そうしてラルトは肉に夢中になり、その隣で俺は肉を串に刺して焼き始める。
そして俺とラルトの向かい側にはガルフが座りその近くでガルフとお喋りながら魔獣を解体し始めるヴァーレ。いつもの光景、そのほのぼのとした空気が魔獣の徘徊する森に春風とともに流れる。
皆と過ごす時間は暖かくてそして楽しい。だが楽しい時間はあっという間に過ぎ去るというのは異世界も同じことらしい。気が付くと段々と日が傾き始めていた。
「うっし、そろそろ帰るか。」
空を見上げ、太陽の位置を見てからガルフがそう言うと全員が片づけを始める。俺は水魔法で火を消化し、ラルトとヴァーレは今日倒した魔獣の戦利品を担ぎ始める。といってもほとんどヴァーレが持っているのだが。
それぞれが片づけと準備を終え街路の方へと歩き始める。前までは移動中は基本気を張り続けなければいけなかったがそれも今や俺の探知魔法のおかげでその必要がほぼなくなった。
今も雑談をし笑顔を見せながら森の中を進んでいる。探知魔法にも特に反応はないので俺もその会話に混ざり先ほどの雰囲気のまま軽い足取りで帰り道を歩く......予定だった。
そろそろ街路が近くなるので最後に一応探知魔法で索敵をすると複数の反応を検知する。人と魔獣両方の反応。森からではなく道の方からだ。しかも人が魔獣に囲まれている形で。
最後にもう一仕事かと内心ため息をつきながらスイッチを入れる。この3年間で戦闘時と非戦闘時でその切り替えが非常にうまくなった。その証拠と言っては何だが俺の空気が変わったことにほかの3人が気づきこちらに視線を向ける。
「道で誰かが魔獣に襲われてるからちょっと助けに行ってくる。」
俺の言葉を聞いて近くに魔獣がいると思っていたのか皆少しだけ気を緩める。
「...大丈夫か?」
2人と違って心配そうに尋ねるガルフに俺は笑って返事をする。
「大丈夫だって。ぱっと倒してすぐ戻るから。」
「そうか。まぁ俺たちも一応後からついていくから無理はすんなよ。」
「分かってるって。」
「じゃ、先行ってくるね。」
「僕たちもすぐ行くからね!」
「大丈夫だと思いますけど気を付けてくださいね!」
「うん、ありがとね。」
俺は普段よりも多めの魔力で身体強化し、目的地に向かって駆ける。
ホントにガルフは心配性だな。まぁ確かにシチュエーションは1年前と同じだけどね。
数秒前のガルフの顔を思い浮かべながら一人苦笑する。
なぜこんなにもガルフが不安な顔をするのか、その理由は1年前の出来事に起因する。
1年前の春、先ほどのように魔獣狩りから帰ろうとしていた時に道で多くの反応があった。
その構図が十数人の集団を人が囲んでいるというものだった。
「ガルフ、多分道の方で誰かが盗賊に囲まれてる。」
「何?それは本当か?」
「うん、反応的にそうだと思う。」
盗賊という言葉が聞こえたのかラルトとヴァーレが身体を強張らせる。
一方で顎に手を当てガルフはこれからどうするべきかと俯く。
「俺が先に見てくるよ。俺が一番早いし、気になるし。」
「...大丈夫か?別に無理する必要はないんだぞ?」
顔を上げこちらを不安な表情で見つめるガルフ。
「大丈夫だよ、盗賊ぐらい楽勝だよ。それに、まぁ助けられそうなら助けた方がいいと思うし。」
「..そうか、わかった。先に行け、クロ。俺たちもすぐに行く。」
「うん、任せて。」
そう言い残し俺は全速力で走り、森を抜ける。
木々の先、そこには十数人の盗賊に囲まれている馬車の姿があった。
「やっぱり盗賊だ、よしやるか。」
俺はナイフを抜き意識を切り替え今から起こる戦闘に集中する。
その頃の俺はすでに人を殺すことへのためらいは一切なく敵であれば魔獣だろうが人間だろうが容赦なく倒すことができるようになっており、さらに魔獣との闘いや日々の鍛錬など戦闘技術や魔力量においても群を抜いていた。
そんな俺に盗賊は相手にならなかった。森の中から飛び出し魔力でコーティングしたナイフと身体強化した体で盗賊たちを一網打尽にする。
一人は首を切られ、一人は胴体を切り裂かれ、また一人は蹴りによって思い切り木にたたきつけられあっという間に盗賊たちは鎮圧された。探知魔法を使い生き残りがいないかを確認する。馬車の中にいる人たちとガルフたちらしき反応しかないな、よし。
俺はナイフに付着した血を落とし馬車にいる人たちが無事かどうかを確認しようと中をのぞく。
中には子供からお年寄りまでの人が家族と肩を寄せ合ったり、一人で震えている人がいた。大きい荷物がないことからおそらく旅行用の馬車なのだろう。
「...あの...盗賊は倒したのでもう大丈夫..ですよ..」
うわっ!めっちゃ緊張する!!しかもめっちゃどもっちゃった...
異世界に来て初めて一般市民と話すため異常なまでに緊張していたが恐怖に震えていた人たちに少し言葉が詰まりながらも安全が確保されたことを教える。
中にいた人たちは俺の言葉を聞いて肩の力を抜く、が顔と体、いろいろな箇所に血がついている俺の姿を見て抜いたはずの力が戻ってくる。
「..ああ、ありがとう、少年..」
怯えながら帽子をかぶった普通の人に比べ恰幅のいい男性が俺に感謝の言葉を述べる。
しかしその怯えも相まって全く感謝されている気がしない。
「...いえ...たまたま近くにいただけなので。」
盗賊が倒されたことに安堵する人々だが目の前にいるおそらく返り血であろう赤色の液体まみれの俺を見てヒソヒソ、ヒソヒソと近くの人と話し始める。
だがいくら小さな声で話しても馬車の中は狭いため会話の一部が聞こえてくる。
「何....あの子..血まみれじゃない...」
「怖いよ..お母さん...」
「一人でか....ああ.....異常だ...」
なんなんだよその態度は...
腫れ物を見るかのような視線が体全体に突き刺さる。
別に感謝を求めていたわけではないが助けてあげたのにこの歓迎の仕方はあまりにもひどいのではないか。その態度に納得できず自然と目を細めてしまう。
そのとたん息をのむ声が響き、子供が親にすがる声がそう広くない馬車の中でこだまする。
目は口程に物を言う。俺が受けた視線には異質なものに対する恐怖の感情、自分も殺されるのではないかという不安、今すぐに出て行ってほしいという思いが存分に込められていた。
初めて受ける負の視線に俺は耐え切れず逃げるように馬車から降りる。
「おう、クロ!大丈夫そうだな...ってどうした?」
馬車から降りたタイミングでガルフたちが合流する。目の前に転がっている死体と怪我をしていなさそうな俺を見て安心するがその様子がどこかいつもとおかしいことに気づいたのか疑問符を頭に浮かべる。
「別に..何でもないよ。」
この時から俺は自分の異常性について思い知らされると同時にその異常性に対しての視線に敏感になり、人見知りへの道を歩み始めたのである。ぶっちゃけるとあの時受けた視線がトラウマみたいになったのだ。後にガルフにあの時何があったのか話せと言われたので起こったことを自虐するように話したのだがその時はとても慰められました。そしてそこから先ほどのようにガルフが今まで以上に俺のことを心配するようになったのである。
少し苦い思い出を脳内で再生しながら足を動かしているともうそろそろ道が見えてくるところまで来ていた。サクッとやって帰ろう。そう思いながら襲っている魔獣は何なのかを確認するため少し高い木に向かってジャンプする。
「....は?」
思わず声が出る。
目に映ったのは今まで見たことない高貴な馬車とそれを守るようにして戦う騎士のような人たち。
そしてそれを取り囲み、騎士の人たちを襲っているCランクの魔獣ホワイトウルフの姿。
「...なんでCランクの魔獣がこんなとこにいるんだ?..」
本来ならありえないような光景がそこにはあった。
この作品を見つけそして読んでくれた方に最大の感謝を。




