北方プロジェクト 第十
姉妹喧嘩。春。
「もし、姉さま。あなたの態度が気に入らない。」
挑発的に微笑んでみせる妹、春将軍。
「そうかしら。私には普通だけど。」
姉、冬将軍は正常体で平気な顔を見せる。実は怒り心頭なのだが、涼やかに返してみせる。
「姉さまにそういう態度は似合わない!もっとあたふたするといいわ。」
「あんまり、私を怒らせ無い方がいいわよ。」
ずいっと顔を妹の方に突き出して威嚇する。
それも無表情で。
これには、妹トーラーもビビった。しかし、そこで引く訳にはいかない。
「うわーー!変な顔。うふふ。傑作だわ。」
姉アドニも同様に少し恐れが頭をよぎった。それが顔に出ていたのだろう。うふふ。とトーラーが笑ってみせる。先程と違って作り笑いでは無く、真にせまった笑いであった。
アドニは決心する。妹をボコる。その現れた選択肢に凝視していたい。
いきなりと言っては何だが、アドニは呪文を唱え出す。雪よ。満ちよ。精霊よ。我にこたえよ。私はアドニ。誇り高き冬将軍。この生意気な妹を打て。命令する。全ての冷気よ。妹トーラーを取り巻け。圧殺せよ。
しかし、それに対してトーラーも呪文を唱え出す。最初は棒読みで、しかし、次第に没頭しつつ、暖気よ。我が名にこたえよ。私はトーラー。誇り高き春将軍。さあ、花道を開こう。あたたかな恋で、姉アドニを心から溶かせ。命令する。雪の女王を打ち倒せ。彼女のあたたかき眼を取り戻せ。
双者の攻撃、呪文の属性攻撃は混ざり合い、どちらかが圧倒するのかと想いきや、中和し合い、抱きしめ合うかの様に溶けていく。
ここで神凪がいきなり出て来て言った。「決着ね。両者引き分け、の所を四季を回転させる事は「天命」によるものだから、やはり、春優勢の様ね。ほら、アドニに暖気が灯っているでしょう?今は春だから、トーラーが勝つのは当然ね!」
実はこの場には客観者たるトヴ・エロヒームが居たのだが、この三人には気付く事が出来無かった。「隠れた事を見ておられるあなたの父」、女性にも関わらず、福音書にて父と呼ばれているのである。宗教的錯誤がここには有るのである。