第98話 俺の間合いに入って
「シ、シノブさあん!
こっちに来ちゃダメだからああ!!」
俺は右手をかざすと、迫り来るシノブさんに制止を促した。
「いえいえ…兄様。私などお気になさらずに、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
しかしシノブさんは気に介することなく、
湯舟の中を悠々と歩いて俺へ近付いてくる。
「気にしますよおおお!!」
俺は声を上げながら、湯舟の中を後ずさりした。
今まで俺はシノブさんの一死纏わぬ姿を見ないように、
彼女から自身の体の向きをずらして、
視線を外していたのだ。
だが彼女はそんな俺の視線にカラダの向きに合わせると、
あろうことか俺の間近に身を寄せて来たのである。
まるで自身の裸を俺に魅せ付けるように!
ああああああ!
凄い美人さんの!
あられもない姿が!
俺の目線に入ってくるのおおおお!!
駄目ええええ!!!!
俺は急ぎ精神を集中させると、
『地ノ宮流気士術・四の型、瞑想』を行使する。
この技は、心を静め、一切の雑念を無くし、
高めた気を傷口に集中させて回復を図る技。
しかし俺はこの異世界エゾン・レイギスに来てからというもの、
この技を行うに至っての、
”心を静め一切の雑念を無くす”という所を本当に重宝している。
この『瞑想』の技を行うことによって、女性へのやましい感情を静めるのである。
今回の技の行使の目的はもちろん、目の前の全裸美女に対してである。
…よし、高ぶった心が落ち着いて来たぞ。
俺の股間の分身も平静状態を保っている…大丈夫だ、問題ない。
やはり不測の事態でこの技を行使するのは有効だと俺は実感した。
しかし、この方法は先ほどの優羽花の暴走状態の時には使う事は出来なかった。
その理由は、俺は瞑想を行使した状態では無防備になってしまう為、
優羽花の攻撃に抵抗することも躱すことも出来なくなってしまうからである。
…だがそれは俺が未熟者なだけであろう。
俺が無防備状態に陥ることなく瞑想を行使できれば、
あんな酷い事態にも成らなかったのだろうから…。
もっと精進して技自体を高めなければ…俺はそう決意を新たにした。
「ふふ、ケイガ兄様。
やはり私のカラダでは劣情を催さないじゃありませんか?
まったく、冗談はおやめください」
心を静めて一安心した俺の前に、
シノブさんはその美しいカラダを全く隠す素振りも無く俺の眼の前に立っていた。
そして俺の股間を覗き込みながらにっこり微笑んだ。




