第94話 セーフです!
「あ、あ…あうう…ああ…ち、違うもん!
お兄の…そ、そこはあ…昔はもっと可愛かったもん!
そんなに大きくて…怖くは無かったもん!」
優羽花が顔を真っ赤にして俺の股間を指さしながら、何か訳がわからないことを喚いている。
言葉遣いが幼くなっている気がする。
少し幼児退行を起こしてはいないだろうか?
しかし俺の股間の分身が可愛かった時代なんて…
一体何時の頃のことを言っているのだ?
我が愛しい妹よ?
人間とは日々成長するものなのである。
そして時の流れは残酷なのだ。
「う…うーん…」
「…は…うう…」
シダレは目を回しながらぺたりと座り込んでいる。
ツツジは耳まで赤くなった顔を両手で覆いながらしゃがみ込んでいる。
ああ、せっかく俺と優羽花を護衛に来てくれたのに、こんなことになって申し訳ない…。
俺は姫騎士団のふたりに心の中で謝った。
しかし、俺の分身は100%の状態では無かった。
45%…せいぜい60%といった所だろう。
100%中の100%の俺の分身を見られてしまっては俺は羞恥の余り切腹モノだったろうが、
それとは程遠い状態だったのである。
つまり俺の分身は、優羽花が言う程は恐ろしくは無い筈なのだ!
だから今回はセーフ! セーフです!
…多分。
俺は洗い場の蛇口の青い手回しを全開にすると、木の桶の中に冷水を溜めた。
そして桶の水を俺の股間に容赦なく打ちつける。
それを何度か繰り返す。
その冷たさに俺の身体は震え、股間の分身の猛りの熱も鎮まっていく。
ふう…平静を取り戻した分身の様相を見て、俺は胸を撫でおろした。
そして俺はタオルを腰に巻くと周囲を改めて見回した。
優羽花、シダレ、ツツジ。
愛しい妹たちは全員、放心状態である。
これは優羽花が招いた事態であり、俺自身は被害者であり非は無いのだが…
兄として妹たちをこのまま放っておくことは出来ないだろう。
だが彼女たちがこうなってしまった原因は間違いなく俺である。
そんな俺が彼女たちを介抱しようものなら、再度ショックを与えてしまうかも知れない。
一体どうするべきか…俺が思案に明け暮れていたところ、突然脱衣所から声がした。
「ケイガ兄様! 大きな声がしたのですが、何かありましたか?」
姫騎士団の団長であるシノブさんが脱衣所から浴場へと続く扉ごしに俺を呼んでいる。
なるほど、さっきの優羽花たちの絶叫が銭湯の外にまで聞こえたということか。
俺は渡りに船とばかりに浴場の扉を開けると、シノブさんに助けを求めた。




