第79話 愛しい妹への言葉
「俺はそう思っているけど、優羽花は違うのか?」
俺は神妙な表情で問いかけてきた優羽花に言葉を返す。
彼女からはさっきまでの俺に対する態度とは違う真剣さを感じる。
俺は内心襟を正した。
これは俺も真面目な言葉を選ぶ必要があるだろう。
「あ、あたしは…あたしは…。
そ、それじゃあ! お兄はあたしのことどう思っているの?」
「どうって?
俺に取って優羽花はかけがえの無い愛しい妹だよ」
「そうじゃなくて!
妹としてじゃ無くて!
ひとりの女の子として、あたしのことをどう思っているのか聞きたいの!
その…お兄は…あたしのこと…好き? 嫌い?」
優羽花は頬を赤らめてどぎまぎしながら、最後には俺の顔を覗き込むように真っすぐと見つめて問いかけた。
俺は心のままに真直の言葉を返した。
「好きに決まっているだろう」
「!?」
優羽花の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
俺はそんなに驚くことを言ったのか?
彼女とは直接の血のつながりは無いけれど、16年間同じ屋根の下で過ごして来たかけがけのない愛しい妹。
彼女は俺にとって妹そのものであり、ひとりの女の子としてどう思っているとか言われても、妹であることを切り離して考えることなど俺には出来ない。
だがこれははっきりと言える、俺は優羽花のことが好きであるということである。
「…うう…」
優羽花は真っ赤になった顔を手で覆って黙りこくった。
そう言えば俺が優羽花に対してこの様な好意の言葉を言ったのは初めてである。
だがあえて口に出すことでも無いだろうし、俺も優羽花に問われなければこの様に言葉にすることは無かっただろう。
いくら兄相手とはいえ、年ごろの娘が男に真正面から好意の言葉を言われると色々と面食らってしまうのだろうな。
俺は何も言わずに優羽花が落ち着くのを待つことにした。
しばらくの時間が過ぎて、顔の紅潮が収まって来た優羽花は口を開いた。
「…そんなこと言っても、どうせ妹として好きとかなんでしょ?」
「優羽花は俺にとって愛しい妹だからな、そのことを切り離して考えることは俺には決して出来ない。これは譲れないよ」
「そうだと思った」
彼女はそう言うと、俺の向かいで座っていた席を立って、俺の右隣の椅子に移動して座った。
そして自分の身体を椅子ごと俺の側に寄せると、俺の左肩にその頭を預けた。
「あたしが望んでいる関係は…お兄が望んでいる関係とは違うかもしれないよ…。
でもお兄がこのままの関係を望むなら、あたしはそれでも良いよ…今はね」
「そっかあ」
俺は自分の手を伸ばすと優羽花の頭をそっと撫でた。
彼女は気持ちよさそうに目を閉じながら笑顔を浮かべた。
お読み頂きありがとうございました。
良ろしければ
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