第73話 聖王国の食文化
「兄様…ユウカ様…。…ツツジが作った締めのデザートです…どうぞ…」
ツツジが置いた皿の上には、色鮮やかな果物の盛り合わせと、丸い透明な餅状のモノの中に餡子の様なモノが入ったお菓子が皿に乗せられている。
果物はさっぱりじた感じの程良いい甘さである。
そしてお菓子は見た目通り、葛餅に極めて近いものであった。
「旨い!」
「美味しい!」
俺と優羽花の賞賛の声は料理の締めのデザートに至るまで重なった。
「…良かった…」
長い前髪から少し覗いた彼女の潤んだ歓喜の瞳が俺をどきりとさせた。
「「ごちそうさまー」」
俺たちはポーラ姫、ミリィ、姫騎士団の出してくれた食事を心ゆくまで堪能し、完食した。
「はあ…すごく美味しかったね、お兄」
「ああ、旨かった…」
「お二人がこんなにも美味しそうに食べて下さって、私も献立を作りがいがありました」
姫騎士団のシノブ団長が俺たちの前にやって来て一礼した。
えっ!?
シノブさんが献立を作っていたのか?
つまりシノブさんは今俺たちが食べた全ての料理を把握していて、みんなの調理技術をも把握しているということになる。
姫騎士団の団長ともなれば、料理の腕も一流ということなのか?
「ありがとうシノブさん。
ちょっと聞きたいんだが、これらの調理方法ってこの国に昔から伝わる調理方法なのかな?」
「正確な時期はわかりませんが、今日おふたりにお出しした料理のレシピは王宮の厨房にはかなり前から伝わっていた様です。
今日の料理はその数あるレシピからお二人がお気に召すようなコース料理を選ばせて頂きました」
なるほど…これらのことから俺はこのエクスラント聖王国の食文化に関してある程度の確信に至った。
俺たちが食べた料理は和食のコース料理である。しかも現在のものに近い。
つまり俺とそう遠くない世代の人間がこの異世界エゾン・レイギスに召喚されて、料理のレシピをこの聖王国に伝えたと思われるのだ。
オウミギューに関しても日本人の誰かがそう名付けたのだろう。
それも、ギューを品種交配して新たなギューを作ってその品種をオウミと名付けた可能性があるのではないか?
少なくとも聖王国の食文化…料理、食材に関しては地球の、それも日本の影響をかなり受けていると俺は思う。
それならば日本人である俺は異世界でありながら和食の生活には困らないのでは無いだろうか?
俺はこのことを肯定的に受け取ることにした。
人に取って食事は大切なものである。
食べたものが血肉となり心身を構成する。そして力になる。
この俺、鳴鐘 慧河を造り上げて来たものは日本の料理すなわち和食と言っても過言では無いのである。
エクスラント聖王国の和食文化であれば、俺は異世界でありながら食の面では力を損ねることは全く問題は無い。
この異世界エゾン・レイギスは俺が元居た世界よりも遥かに戦いに満ちた世界である。
俺はこの世界で生き抜いていくために鍛錬を積んで今よりもっと強くならなければならない。
その為には俺の心身を造り上げる食生活の土台がしっかりしていることも大切なことなのだ。
俺はこの世界で和食を広めたであろう先人達に感謝した。
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