第58話 勇者の兄の登城
「さて、わたくしにはもう一人あなたたちに紹介したい御方がおりますわ。
異世界の戦士であり、勇者ユウカ様のお兄様でもあられます。
さあ、ケイガ様。どうぞおいでくださいませ」
「異世界の戦士ケイガ様の御登城である、一同、一礼せよ」
シノブ団長の言葉が謁見の間に響き、姫騎士団は全員一礼する。
続き一礼するゴルザベス、バイアン、クリストの三人。
そして眼鏡を掛けた一人の青年が謁見の間に姿を現した。
「ポーラ殿下、妹共々この様な場所にお呼び下さって僭越至極です」
「いやですわケイガ様、貴方もそんな堅苦しい言葉も姿勢も結構ですわ。楽になさって下さいね」
「ありがとうございます、ポーラ殿下」
「勇者様の兄上でございますか…それではその魔力数値は如何なものですか?」
商会長バイアンは先の優羽花同様に『見通しの眼鏡』でケイガの魔力数値を計測する。
「魔力数値0!? …はっはっはっ! これは可笑しいですぞ!
異世界から召喚された者は魔力数値100前後は確実。
そしてこの世界の者の大人でも低くとも5はあるのでずぞ。
それが、そのケイガ殿はゼロ! これでは私にも及ばないではありませぬか!
そんな者が魔族との戦いにおいて何の役に立つというのですか!」
「魔力ゼロという者は逆に珍しくはありますが、魔族との戦いに身を捧げる我が聖王国には必要のない者ですじゃ」
「ふっふっふっ…勇者様の兄とて、魔力ゼロの役立たずの男などを特別扱いするなど有り得ませんなあ殿下?」
「ふふ、ボクはさっき言ったよね? 見通しの眼鏡に頼ってばかりでは物事の本質を見誤るということを!」
「…何ですとっ!?」
「三人とも聞きなさい。ケイガ様はこのエゾン・レイギスでは稀有な『気』を扱う異世界の戦士様なのですよ。故に魔力は無いのです」
「『気』ですと…? そんなものは書物に記載されているぐらいで実際は誰も見たことは無い御伽噺に等しい力の筈!?」
「いいえ、わたくしは見ましたわ。ケイガ様の拳が魔力数値100のゴウレムを一撃で粉々にしているのを。ケイガ様の『気』は本物ですわ」
「ケイガ様は魔力数値850の魔族の騎士と互角に渡り合っているんだ。つまりケイガ様の気を魔力に換算すると魔力数値850ぐらいと言うのが魔術学に通じているボクの見解だね」
「魔力数値850相当ですと!? それ程の力を持つ異世界の戦士など今迄居なかった筈ッ!?」
「ボクは勇者様の兄上なら全然おかしくはないと思うよ。と言うようよりも…精霊様はケイガ様を『気』を扱う異世界の戦士として、勇者様とは別枠で召喚したんじゃないかな?」
「ケイガ様のお力はわたくしたちでは測ることすら出来ない未知の領域ということですね。三人とも理解なさい。そして役立たず等と侮蔑の言葉を吐いたその非礼をケイガ様へきちんと謝罪なさい!」
「…は、ははっー!
も、申し訳ございません…ケイガ様。どうかお許しを…」
三人は二度、屈辱に塗れながらも慧河に謝罪の言葉を述べるしかなかった。
お読み頂きありがとうございました。
良ろしければ
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