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579話 五体投地

 しかし…結局のところ、

 今回のことは俺のほうに不義があるということだ。

 色々と言い訳を述べたところで、

 俺は妹たちへの個別の所業…もとい、

 妹たちの個別の望みに答えていたところが、

 他の妹たちに不公平感を与えたことは間違いが無いのだから。


 兄は妹たちを等しく愛さなくてはならない。

 これは兄として当然である。

 なのに…

 他らなぬ兄である俺が、それを破って、

 愛しい妹たちに不快感を与えてしまったことは

 間違いないのだから。


 そんな愚かな兄である俺が今、

 やらなければならないことは一つである。


 俺は衣服を正し、襟元を整え、姿勢を正した。

 そして正座をして、

 手の平を地面に付け、額を地面に付くまで伏せた。


 日本の古来からの謝罪礼法、『DOGEZA(土下座(どげざ))』である。


「みんな…すまない!

俺は、兄なのに…妹のみんなに不公平感を与えてしまった!

本当に…本当に…申し訳ない!」


 俺は頭を地面に付けながら謝罪の言葉を述べた。


 ああ…異世界エゾン・レイギスにやって来てから、

 こうやって土下座するのは精神世界での巫女服姿の静里菜(せりな)との再会、

 ポーラ姫のスケスケのネグリジェ姿での夜襲に続いて三度目か。

 静里菜(せりな)あ!

 愚かな兄さんはまた土下座する羽目になっているぞ!


 土下座とは相手に対して完全に無防備になることで、

 謝罪の相手に生殺与奪の権を与えて許しを請う行為である。

 だが例え許されなくても俺はとうに覚悟は出来ている。


 愚かな兄は妹に殺されても止む無し!

 いや…愛しい妹に殺されるなら、

 それは兄としてむしろ本望なのでは…?


 鳴鐘 慧河(なるがね けいが)よ。

 何故もがき生きるのか!


 妹が与える死こそ兄としての喜び。

 死にゆく兄こそ美しい…

 さあ、鳴鐘 慧河(なるがね けいが)よ。

 愛する妹たちの手の中で、息絶えるがよい…。


 俺は、一気に、兄としての境地に到達した。

 人は土壇場で、火事場の馬鹿力などと呼ばれる驚異的な力を発揮するという。

 しかしそれは単純な物理的な力だけでは無く、

 思考の面、精神的な面でも言えるのでは無いだろうか?

 俺は此処に追い詰められて、『DOGEZA(土下座(どげざ))』迄した結果、

 この考えに至れたという訳か…。


 これが無我の境地…いや、兄の境地ということ…!?


 死は救いでもある。


 妹に殺されることは兄としての救いでもある?


 そうか、そういうことか!


 俺は、兄として、すべてがわかった!!


 愛する兄よ、死に候え。


 …もう何も…怖くない!


 俺は、地面に頭を付けて、妹たちに心身の全てを捧げた。

 まさに文字通り、五体を投げうった!



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