577話 龍身中の蟲
「…えっ、あっ、ポーラさん、
お兄が皆に隠れてこっそりしている件のことよね?
夜中にミリィさんと部屋に籠ったり、
シノブさんと一緒にお風呂入ったり…ほかにも…」
「ちょっ…まっ!?
そこまでだ優羽花!!
ストッーーーーップ!!
ち、違うんだ!
ミリィが日本のことを教えて欲しいって言うから、
俺は昼は稽古に明け暮れていて時間が無いので
夜しか時間が無くてですね!
それ以外は他意は無いからね!
シノブさんはですね!
この勝手知らぬ異世界エゾン・レイギスで
俺と優羽花は、
いつも並々ならぬお世話になっているので
何か俺に出来ることなら何でもするって言ったら、
何故か一緒にお風呂を希望されたので…
いやあ俺は駄目だといったよ?
でもシノブさんは
”今何でもするって言いましたよね?
それに今更でしょう、
もうお互いに身体の隅々まで見合っているのですから”
と譲らないので仕方なくですね!」
俺は気が動転して余計なことまで言っている気がするぞ!
しかし俺は兄である。
妹の望みには答えなくてはいけない。
それが兄としての当然のことなのだ。
つまり一緒に寝たり、一緒に寝たり、
お風呂に入ったり、お風呂に入ったりするのも…
求められたのだから答えるのは当然ということ!
…寝る事と風呂ばかりじゃないか最悪だな俺!
いやいや、これは決して悪い事ではない兄が妹の望みに答えただけ!
つまり俺の悪行が白日の元にされた訳ではない
これは俺の妹たちへの愛が公表されたというだけなのだ!
だから俺は悪くない!!
「…ああっ…」
ポーラ姫は頭を抑えると、その場に力なくへたりこんだ。
「はあ…わたくしが知らないうちに、
ミリィお姉さまも、姫騎士団も、
ケイガお兄様とそんなに”しっぽり”されているなんて…」
「しっぽりだなんて失礼だよポーラ!
ボクはケイガ兄君様に故郷の”ニホン”の話を聞いていただけなんだからね!
大体兄君様が皆にそんなことするわけないじゃないか。
…そうだよね、ケイガ兄君様?」
「もももちろんだともミリィ!
俺と妹たちは健全な絆で結ばれている!
ふしだらなことなど一切ある訳がないだろ!!
信じろください」
「はあ…わたくしがケイガお兄様と今よりも”ちょっぴり”仲良くなりたくて、
お兄様の寝室に行こうものなら毎度、姫騎士団にコテンパンされていたのに…その陰で、まさかこんなことになっていたなんて…
ふふふっ…まさに龍身中の蟲とはこのことですわ!」
「ポーラ、君の言う”ちょっぴり”って大概だとボクは思うんだけど…」
「ミリィお姉さま、そんなことよりも…
わたくしの知らない所で
この様なことが行われていたことがわかった以上、
妹の一人として…
ケイガお兄様に言わなければならないことはありますの」
ポーラ姫はそう言うと俺に向かって向き直った。
先ほどとはまるで違う、一国の姫としての凛とした雰囲気。
その宝石の様な綺麗な瞳とは裏腹の強い眼差し。
俺は思わず襟を正した。




