574話 歴然
確かに俺は…
この異世界エゾン・レイギスに来る少し前、
元の世界である地球の日本で
16年間、兄妹として過ごして来た優羽花と静里菜に向かって言った。
大切な妹たちをずっと護る、と。
今思うとちょっと格好付けすぎかも知れないセリフ。
俺はキザ!
でも優羽花は、
あの時に俺が見せた頼れる兄としての強い気概を
求めていたということなんだな?
でも…
なぁ…優羽花。
時間が立つってかなしいことなの…。
あの時とは、俺とお前の力関係がまるで違うんだ。
「ええと…
確かにそういうことも言いましたね。
しかし歴然とした事実で…
今は俺よりお前のほうが光の勇者として確実に強い訳で。
そんな状態で俺がそんなこと言っても嘘になるだけだろ?
兄さん嘘はいけないと思うんだ」
「うるさいお兄!
そういうことじゃないって言ってるでしょ!
…大体、相手がポーラさんやミリィさんだったら、
俺が護るって言っちゃうんでしょ?」
「たしかにポーラ姫とミリィは
俺より身体的には弱いかも知れないが、
彼女たちは魔法面では俺より強いからな。
そもそも二人とも人の上に立って国を治める王族であるから、
精神面は俺よりも強いんだ。
そしてこのふたりと
この聖王国を護る姫騎士団の妹たちも心身共に強い。
俺の異世界の妹たちは皆強いんだ。
だから俺が護るとか、それはおこがましい事だと思わないか?」
「そ、そんなこと言ったって…
でも、静里菜相手だったら、
俺が護るとか言うんでしょ!
お兄は静里菜に甘いもんね!」
「静里菜かあ…
…あいつは強いぞ?
むしろ”妖”との戦いでは
俺のほうが静里菜の巫術に
助けられていたんじゃないかな?
あ、優羽花はそのことは知らないんだったか?」
「???あやかし?何それ?」
「…まあそれは知らなくてもいいことさ。
そのことを抜きにしても、
静里菜が精神的に強いってことは…
優羽花も良く知っているだろ?」
「…うん、知ってる」
「だろう?」
「とにかく、俺の異世界の妹たちは皆強い。
とくに精神面においては誰もが優羽花より強いんだよ。
だから俺は妹の中でも優羽花を一番気に掛けている。
お前のことが心配なんだ。
これはまごうことなき事実だ」
俺は優羽花の瞳をまっすぐに見つめながら、
ゆっくりと言葉を返した。




