573話 求め
…つまり、ギャグ漫画アニメセカイの住人というものは、
一般人とは比べ物にならない
強靭な肉体強度を有しているということなのか?
殴り飛ばされて壁にめり込んでも死なない身体、
そして瞬く間にケガが治る自己再生力を持っているのだから。
そういえばこの異世界での新妹のひとりであるポーラ姫も、
ミリィとのいつもの”ロイヤル漫才”で
よく巨大なたんこぶを作っては直ぐに治っていたが…
実は回復魔法を使って直していたというカラクリがあったのである。
少なくとも…
ギャグ漫画アニメセカイの住人というものは、
俺が元々住んでいた地球セカイの住人とは
比べ物にならない強い力を有していることは確実か…。
城のバルコニーに仰向けに倒れて
身体を城壁の欠片に埋もれさせて…、
視界に飛び込んできた異世界の美しい空を見つめながら
俺はそんなことを考えていた。
…ふむ、身体は問題なく動く。
とりあえず無事に生きてはいるな。
俺は冷静に自分の状態を確認すると、
身体の上にかぶさっていた城壁の欠片を払って起き上がる。
そしてバルコニーの床にそのまま座り込んだ。
大穴が空いた議会堂の壁から
優羽花が抜け出て来て、
俺の側へとやって来ると
腕を組んで仁王立ちした。
まだ全然言い足りないといった有り様である。
俺は憮然とした体勢のままの優羽花に向かって口を開いた。
「しかしなあ、優羽花。
俺は充分に…いや一番に気に掛けているのは嘘じゃない。
前に言った通り、
俺に取って優羽花は一番大切な妹だから。
だから俺はお前に生きて欲しいから、
大魔王を始めとした強い敵と戦っても生き残れるように、
お前を強くする為に、
他の妹の誰よりも優先して組稽古をしている訳で…」
「だからそういうんじゃないっていってんでしょ!
お兄が実際にやっているのは
毎日長時間あたしに殴りかかっているだけじゃない!
しかもディラムさんと二人がかりでさ。
大の男ふたりで
か弱い女の子を殴りかかっておいて、
それで一番気に掛けているとか、
どう考えてもおかしいでしょ!」
「大の男ふたりでか弱い女の子を殴るとか
誤解を招く言い方はちょっと…
そもそも光の勇者である優羽花は
俺とディラムより強い訳で…
それに俺もディラムもむしろ、
優羽花に殺されかかっているほうだと思うんですが…。
…これって前も言ったような気がするぞ。
それで優羽花も納得済みだったじゃないか?」
「ちがうちがう!
そうじゃなぁい!
あたしが言いたいのはそういうんじゃない!
だいたい妹が大切だから殴って鍛えるとか、
頭おかしいじゃない!
…大体、そういう時は、
兄である俺がお前を護る!
…とか、
そういうカッコいい事を言うもんじゃないの?
…前にお兄が言ってくれたみたいに…」
優羽花は訴える様な眼差しを俺に向けた。




