570話 閃光
「わたしもそうおもうー」
俺の頭の上で浮いている光の精霊ヒカリも両手を上げて同意している。
ヒカリさん、あなたもですか!?
「やっぱり皆もそう思うよね?
だってイルーラさんは
他らなぬケイガ兄君様の妹になりたいって言っているんだよ。
兄君様の妹になりたい人が悪い人である訳が無いよ。
ましてや、策を弄して兄君様を害することなんてあり得ない。
そして兄君様の妹のボク達を害することも、
兄君様が居るこの聖王国についても、もちろんだよ。
そうだよねイルーラさん」
ミリィは笑顔を浮かべながらイルーラに言葉を掛けた。
「…もちろん…
…わたしはケイガにも、彼の妹であるあなたたちにも…
…決して、困らせる様なことはしないわ…」
イルーラは大きく頷くと言葉を返した。
あ、あ、ああ…。
俺は心の中で、
声にならない声を上げていた。
自分の愚かさに絶句していた。
俺の妹になりたい人が、悪い人である訳がない。
妹たちはそう考えていたのである。
そんな彼女たちに対して、イルーラもそう答えた。
イルーラが嘘をつくような人ではないということは
俺も良くわかっている。
イルーラが大魔王直属の高位魔族とは思えないほど、
善性に満ちた人であるということは、
俺は彼女の立ち振る舞い、
そして感覚的にも理解していた。
しかし俺は…
彼女が大魔王側の高位魔族であるという
状況的事実に強く捉われて、
物事の本質を見誤ってしまっていた。
目が曇っていた。
色々と小賢しく考えて…
俺は…俺は…結局…何も…
俺はがっくりとうなだれて、
椅子に深く座り込んでしまった。
大体俺は…
最初から、ミリィの様に、
イルーラに直接問えば良かったんじゃないのか?
しかし俺は、
彼女との穏やかな関係が壊れるのが怖くて、それが出来なかった。
俺の問いに、
イルーラが大魔王側であることをはっきり答えて、
俺と完全に敵対することを恐れたからだ。
つまり俺は、感覚的にイルーラを理解していると言いながら、
実際は彼女をまったく理解してなかったということだ。
何という…俺は…俺は…愚かだ…。
俺は…
皆の兄たる資格は…
無い…。
「どうしたのよお兄?
何だか急に落ち込んだように見えるんだけど?」
自分の余りの愚かさにうなだれていた俺の様子をおかしいと思ったのか、
妹歴16年のツンデレ妹、優羽花が話しかけて来た。
「ふふっ…笑えよ、優羽花。
俺は兄失格だ…」
「はあ?急に何言ってんのお兄?」
「優羽花、この情けなく不甲斐ない兄を…思い切り殴ってくれ」
「あっそう、それじゃあ遠慮なく」
次の瞬間、俺の視界が閃光に包まれた。




