第57話 見通しの眼鏡の誤算
「この少女が勇者様でございますか…それではその魔力数値は如何なものですか?」
商会長バイアンは片眼鏡の様な形をした『見通しの眼鏡』を取り出すと自身の片目に掛けた。
その眼鏡を通してユウカの魔力数値が計測される。
「ほう…魔力数値250。確かにとても高い数値です。
ですが以前に異世界から召喚された戦士の中にも魔力数値200の者はいました。
この世界を救う勇者様としては、幾らか数値が控えめでは無いのですかな?」
バイアンは皮肉を込めた言葉を述べた。
「ふふっ、見通しの眼鏡に頼ってばかりでは物事の本質を見誤るということだね。
ユウカ、見せてごらん。君の本当の力を!」
「うん、ミリィさん!」
優羽花は両拳を握りしめた。
そして先程ミリィに言われたことを実行した。
それは”怒ること”である。
優羽花は魔力のコントロールがまだうまく出来ていない。
だが幾つかの戦闘を経て、怒りの感情で持ってその魔力を大きく引き出した事は周りの人間からも見て取れた。
だから謁見の間に来る少し前に、ミリィは優羽花にこの様な助言をした。
「おそらくあの三人は、ユウカの通常魔力数値について文句を付けて来ると思うんだよね。だからこちらはそれを逆手に取るよ。謁見の間でボクが『見せてごらん君の本当の力を』と言ったら合図だよ、最近ユウカが怒った時の事を思い出して、怒るんだ」
優羽花は最近自分が一番怒ったことを思い出した。
それはとても単純なことだった。
自分にとってかけがえの無い大切な兄を虐めていた”敵”に対してである。
(魔族の騎士、そして何より…あのクロカワと言う女! あの女絶対に許さない!)
次の瞬間、優羽花の怒りが一気に沸きあがり、それと同時に膨大な魔力が彼女の身体からほとばしった!
「…ま、魔力数値600! ば馬鹿な! いくら異世界人でもそれほどの魔力を持つ人間など!? しかも召喚されたばかりでこの数値は!?」」
「世界を救う勇者様ともなればこれぐらいの数値は普通ということなのかもしれませんわ。
そしてユウカ様はその腰に差している勇者様の専用武器、『星剣イクシオン』を振るって魔力数値1500までお力を引き出したのですよ」
「せ、1500!? その様な魔力数値がある訳がない!? 見通しの眼鏡の故障なのでは!」
「人の身としてはあるまじき数値ですじゃ!?」
「おやおや…君たち三人は勇者様をお迎えに上がった我が従妹ポーラニアとボクが嘘を言っているとでも言うのかな?」
「そ、そんな事は…ありませぬ」
「勇者様のお力はわたくしたちの常識では測れぬ領域ということですね。三人とも理解なさい。そして勇者様への無礼を詫びるのですよ!」
「…は、ははっー!
申し訳ございません勇者様…」
三人は屈辱に塗れながらも優羽花に詫びの言葉を述べるしかなかった。
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