561話 妹とセカイと
俺たち人間側、エクスラント聖王国は
大まかには戦力を最少部隊と大部隊の二つに分けて展開する。
俺、優羽花、ヒカリ、ポーラ姫、ミリィ、姫騎士団の
最少人数の精鋭は魔界に侵入。
イクシア王子、聖王国守備隊は聖王国の防衛の為に本国に留まる。
聖王国の周辺の人間国家の動向、
最近動きが活発なジャイール連合帝国には
特に注意しなければならない。
大魔王を討伐しても帰るべき国が無くなっていた…
などというバッドエンドは絶対に避けなければならない。
大魔王の魔族軍も怖いが人間も怖いのだ。
聖王国の防衛としてアポクリファル(ホムンクルス)と魔竜リュシウムも
協力をしてくれることになった。
アポクリファルの爺さんの伝言では、
「聖王国が消えてしまっては儂のせっかくの地上の研究所が無くなって困る」
だから協力するということだ。
まったく…あの研究狂の爺さんらしい意見だが、
戦力としては頼もしい限りである。
中央域から魔界へのルートは
これまで何度も地上と人間界を行き来しているディラムが
最善のルートを先導してくれることになった。
魔界へのルートは俺たち人間側にとっては未知の領域。
渡りに船とはまさにこのことである。
頼りにしているぞディラム。
大魔王が居る場所は魔界の奥底、
500年前の戦いで勇者に敗れた大魔王が
復活の為に眠りにつく場所、常世ノ闇谷。
その無限に深いとされる谷の入り口には巨大な城、
大魔王宮殿ゼノヴァパレスが立っている。
この城と谷を護るのは
魔界五軍将のひとりで大魔王の代言でもある魔言将イルーラとその配下の魔族軍。
俺たちが大魔王を倒す為には、
魔言将イルーラとぶつかることは必至である。
そして最後の魔界五軍将、
魔精将リリンシアとその配下の魔族軍も俺たちの前に立ち塞がることは必至。
しかし、此の二人の魔将に対しては
俺たちと同盟した魔竜将ガルヴァーヴ、魔騎士将ベイファード、
魔導将アポクリファル(本体)と配下の魔族軍が
大魔王宮殿に攻め入って抑える手筈になっている。
つまりこの作戦通りならば、
俺たちは高位魔族や魔族の大軍を相手にすることなく、
力を温存したまま、
魔界の奥底に居る大魔王の元へとたどり着けるという訳である。
しかし戦い、戦争というものは作戦通りいくという事はまず無いだろう。
相手側がどのように判断し行動するのかは解らないのだから。
敵も自分同様に意思を持った存在なのだ。
こちらの思惑通り動く訳がない。
それは俺が過去に幾度となく妖と戦った経験からも、
身に染みて解っていることである。
実際のところは、
俺たちは大魔王の元に辿り着く前に
多少なりとも消耗することになるだろう。
まあそうなったらなったで、
俺がひと踏ん張りすればいいことである。
様は光の勇者である優羽花さえ消耗を抑えられれば良いのだ。
光の勇者は相手が強ければ強いほど力を増す、
そして闇属性である魔族に対して
光属性は絶大な力を発揮する。
優羽花が万全であれば、
大魔王に負ける云われは無いのだ。
つまり今回の作戦での俺の役目は、
優羽花が大魔王と戦うその時まで護ることである。
俺はいつだって我が愛する妹を護ってきた、
それはこれからも変わらない。
つまりいつものことなのだ。
セカイを護るとか人間を護るとか…
そういう肩肘を張ることは一切無い。
俺はいつも通り妹を護る、
それがこのセカイを護ることになるだけのことである。




