558話 天然魔族
「えっ何が?」
突如不満を口にしたポーラ姫にミリィが問いかけた。
「何故わたくしの隣がケイガお兄様じゃありませんの!
ポーラはいついからぬ時もお兄様と一緒に居たいですのに!
お兄様の隣の席はわたくしの席!
ケイガお兄様のおはようからおやすみまでポーラが常に付き添いたいのですわ!」
「あのねポーラ!
これは学校の席決めとかじゃないんだよ!
今回の会議はね、
ボク達人間側とディラム殿の魔族側とで初めて話し合いの席を設けるという、
この魔力満ちる世界の歴史上にも稀にみる大掛かりな会議なんだよ!
従って会議の礼式に従った席の配置があるって事前に言っただろう!」
「ですが、わたくしポーラの歴史上では
お兄様の側にいることが何よりも最優先されますわ!」
「いい加減にしなよポーラあ!」
ぽかん!
ミリィがいつのまにか手に取った杖にポーラ姫が盛大に殴られて
円卓の机に顔から突っ伏した。
「うう…酷いですわミリィお姉さま」
ポーラ姫は自身の後頭部に出来た巨大なたんこぶに
手を当てながら涙目で訴えた。
「このセカイの命運を左右する重要な会議を行おうという時に、
ポーラがおかしな言動をするから…
姉としては窘めるしかないじゃないか!」
「おかしいだなんてそんな…
お兄様を思うわたくしの行動はいつも通り平常運転ですわ!」
「もっと良くないよ!
今は自重しなよ!」
俺の目の前でミリィとポーラ姫による
いつものボケとツッコミのやり取りが繰り広げられた。
二人のやり取りを俺は密かに”ロイヤル漫才”と呼んでいる。
「ふむ…なるほど…
この会議の席は魔族と人にとって大きな一歩となるもの。
ひとつ間違えば魔族と人の長年の戦いによる積怨による、
歴史の重みの空気に押しつぶされかねない。
そこを流石は聖王国の長たる姫君と言うべきか…
それを汲んでわざとこの様な立ち振る舞いをすることで場を和ませ、
我らを何の憂いなく会議に挑める様にしたという訳か」
ディラムは冷静沈着を絵にかいた涼しげな表情に、
僅かに笑みを浮かべて呟いた。
ええっー!?
そんなことは無いでしょう??
深読みし過ぎじゃないですかディラムサンッ!?
俺は思わずディラムに向き直りながら心の中で叫んだ。
魔族というものは俺たち人間と違い基礎能力が大きく強い種族。
それ故に人と思考回路が違う処が多々見受けられるのだ。
そしてこの魔騎士と付き合ってみてわかったのだが、
冷静沈着な氷の表情の様に見えて
その思考は実直、素直すぎる性格なのである。
…天然魔族。
俺の脳裏にその様なパワーワードが浮かんだ。




