542話 一番の妹歴
「あ、あたしは…あたしは…」
優羽花は俺の胸板を殴りつけるのを止めると、
俺の上着をぎゅっと掴んだ。
「あたしだけが…
お兄に厳しく稽古させられているのに…
ポーラさんミリィさん姫騎士団のみんなやヴィシルは
お兄に優しく稽古されて…
これじゃあ…
まるであたしだけが仲間外れされているじゃない…
そう考えたらあたし…
堪え切れ無くなって…」
優羽花かその瞳に涙を潤ませながら言葉を述べた。
なるほど、そういうことだったか…。
そういえば昔、
優羽花と静里菜が子供の頃…
俺が静里菜と仲良くしてたら、
優羽花が何故か怒ることがあったっけ。
俺は知らぬ間に、
優羽花に寂しい気持ちをさせてしまっていたということか…。
「ごめんな優羽花。
兄さんは配慮が足りなかったみたいだ。
でもな、誤解の無い様に言っておくぞ?
俺は優羽花に厳しくした訳じゃない。
光の勇者の能力に加味して俺より強いことは解っていたから
俺の全力でも問題ないと判断してのことだし、
優羽花の星剣の戦いの記憶に頼る戦法に隙があると感じて
戦いの厳しさを教えようとしただけだ。
すべては今後のお前の身を案じての事なんだよ。
何しろ優羽花は光の勇者、
これからも強力な魔族と戦う事になるだろうし、
ゆくゆくは大魔王と戦う事になるだろう。
俺はお前に生きて欲しいから、
その為に俺が出来ることは全てしておきたいんだ。
だって優羽花は…
俺に取って16年以来の…
かけがえの無い大切な妹だから!」
俺は自分の胸中を真直に優羽花に告白した。
そうじゃなければ…
我が妹は納得してくれないと思っての事である。
「えっ…
それって…
つまり…?
あたしだけが仲間外れじゃ無くて…
むしろあたしを一番大切に考えてくれたってこと…なの?」
「ああ、そうだよ!
だって優羽花は
生まれてからずっと俺の妹なんだ。
過ごした時間の長さなんて関係ないって言うけど、
俺は不器用だから時間がそのまま愛情の深さになるんだ。
だから…
一番妹歴の長いお前をどうしても、
妹たちの中で最優先で考えてしまうんだよ!」
売り言葉に買い言葉、
俺は思わず 我がツンデレ妹の問いに勢いで答えてしまった。
しかしこの発言は、
全ての妹を等しく愛さなければならない兄としては失格である。
俺はおそるおそる…
この組手稽古を観戦していたポーラ姫、ミリィのほうを見やった。




