541話 兄が今すべき行動
「優羽花…?
お前…泣いているのか?」
「うあっ…
これは違っ…
こ…こっち見んなお兄っ!?」
我が妹は両腕で必死に涙をぬぐおうとする。
しかしその瞳からは次々と涙が零れ落ちた。
「お…おい、
優羽花…?
何で…?」」
俺は優羽花が泣いている理由が解らず、
戸惑いの余り思わず、
間抜けな問いかけをしてしまった。
いや…
この対応はいけない。
兄としては失格である。
兄である俺が愛する妹に対して今掛けるべき言葉は…。
いや、そうじゃない。
言葉じゃ駄目だ。
まずは行動で示さなければ。
俺は優羽花を包む様にそっと優しく抱きしめた。
「優羽花…
俺にはお前が泣いている理由は解らない。
だけど俺は、優羽花に幾らでも胸を貸すから…
好きなだけ泣くといいぞ?」
俺は優羽花の後頭部を
あやす様に優しく撫でながら話し掛けた。
「…何よそれ!
あたしが泣いてるのは、
他でもないお兄のせいなんだからね!
原因であるあんたがそんな慰めなんて言わないでよ!!」
「…そうなのか?
俺のせいなのか、
優羽花?」
「もちろんそうよ!」
「だったらその理由を詳しく教えて欲しいんだが…?」
「ばかばか!
このデリカシー無しの馬鹿お兄!
そんなこと自分で気付きなさいよ!」
優羽花は俺をボカボカと殴りつけて来た。
いや…
光の勇者の能力で大きく魔力数値が上昇している
今の優羽花の拳で殴られると…
兄さんちょっと痛いんだがッ…!?
だが今はそんなことを言うタイミングでは無いだろう。
空気を読めという事である。
俺は言い掛けた言葉をぐっと飲み込むと、
優羽花に向かって口を開いた。
「そうだなあ…
俺がちょっと力を出し過ぎて
優羽花が痛くて泣いた…
ということでは無いよな?
俺は優羽花の戦闘力は把握しているつもりだ。
お前は光の勇者の能力によって俺より強くなっている。
俺の全力攻撃でもそう簡単には堪えない筈だからな?」
「うん、そういうことじゃない」
「…だったら兄さんは降参だ。
ごめんな優羽花、
不甲斐ない兄で。
だけど俺は優羽花と年は離れている。
なにより性別も違う。
言葉で言ってくれないとわからないことも多いんだ。
だから、何か不満な事があるなら…
出来れば口に出して欲しい。
兄さんはちゃんと聞くからな?」
俺はかしこまると、
我が愛しい妹に対して謝罪と共に
誠心誠意、言葉を伝えた。




