538話 確信に至る
人が生きる事とはそれすなわち、
戦う事なのである。
自分に襲い掛かる様々な障害と戦って生き残らなければならない。
それは俺たちが元居たセカイである日本でも、
異世界エゾン・レイギスでもその障害の大小の差異はあれど
その本質は変わらない。
そんな人生において必要不可欠な戦う事に、
何の抵抗も躊躇も無くなった
現在の優羽花なら…
これからも強く生きていけるだろう。
…もう兄である俺が護る必要も無いのかもしれないな。
俺は我がツンデレ妹を
もう兄を必要としなくなったのでは?
という…寂しさを含めた複雑な視線で見つめた。
「…何よ、お兄?
その目線?
何かキモイんですけど!」
「うわあ容赦ないな!
だがそれでこそ優羽花らしいぞ!
まさにツンデレの真骨頂だぞ優羽花あ!」
「だからツンデレ言うなって言ってるでしょ!」
優羽花の声と共に、
音速の剣撃が俺に襲い掛かる。
だが俺は身体を逸らして最小の動きでその全てを躱し続ける。
光の勇者の専用武器である星剣には
過去の勇者の戦い方が記憶されていて、
戦い方を全て教えてくれるということである。
だが星剣という大きな剣を使用する以上、
そのリーチが長いということは
過去から今に至るまでの全ての勇者に共通している。
俺の主体は格闘術である。
そのリーチは短い。
剣と拳ならリーチ上、俺が圧倒的に不利である。
だが俺はそれを逆手にとって、
剣の間合いの内側、超至近距離に肉迫することで
拳が有利な状況を作り出す。
大ぶりの剣に対して、
小回りの面では拳が有利なのだ。
「はあああ!」
そちらが一撃する前に
こちらは数発入れる。
剣を振り抜く前に拳を入れる。
手数で圧倒する。
戦闘数値だけなら優羽花が有利だが、
戦闘技術は俺の方が上、
差し引き互角といった所である。
「くっ…
この…お兄!」
思い通りの攻撃が出来ないことに焦りの表情を浮かべる優羽花。
「ほう…流石はケイガ。
実際の場数の多さで妹君を上回ったか?」
俺に対して感嘆の言葉を述べるディラム。
そうだ…例え過去の勇者の戦い方を知っていても
それはあくまでデータ上のことであり、
実際の戦いでそれを生かし
有利に立つということは確証されていないのである。
優羽花…
戦う事に慣れて来たお前に兄として、
実際の戦いの厳しさを教えてやろう。
俺は攻撃に転じた。
二人対決でなら、
俺は光の勇者・優羽花には負けないと確信した。




