512話 逃げ出した者たち
「ケイガお兄様?
先程までここに
我が聖王国の元大臣のゴルザベス、
て元御用商品のバイアン、
教会長のクリスト、
の三人が居た筈なのですが…
何処にも姿が見えませんね?」
イクシア王子が洞窟内を
きょろきょろと見回しながら
俺に話しかけてきた。
「えっ、そうだったのか!
イクシア王子?
前に謁見の間であったあの三人か…」
ホウリシア王城の謁見の間で
ポーラ姫に対して謀反を起こし捕縛された
大貴族ゴルザベス。
大商人バイアン。
教会長クリスト。
彼等は立場上、
処刑こそ免れたものの
聖王都ホウリイからは追放された。
貴族ゴルザベスが自領地による
このグリンジスに籠っている事は
周知の事実であった。
まず俺がこのグリンジスにやって来たのは
この地に現れたという
魔族の竜についての調査である。
そして魔族の竜が噂通り実在するならば、
このグリンジスの領主ゴルザベスが
その魔族と手を組んで、
聖王都への反逆を目論んでいる可能性が高いと
聖王国の頭脳である宮廷魔術師ミリィは予測していた。
当然その予測の確認も、
今回の調査の内容に含まれていた。
そして此処にゴルザベスが居たという事は、
ミリィの予測は大体的中していたと
言うことになるのだろう…。
だが商人バイアンに、
教会長のクリスト迄が此処に居たとは…?
彼等ふたりの本拠地は
ゴルザベスの様にグリンジスという訳では無い。
だが彼等は商会と教会の膨大なネットワークを持っている。
その組織力でこの地に住み着いた魔族の存在を
素早く嗅ぎ分けたということか?
「フォフォフォ…その三人なら、
儂とナルガネ・ケイガが
戦う前にそそくさと逃げ出したぞ?
儂としては別に気に留める事でも無かったしのう」
魔導将アポクリファルが
興味なさげな口振りで俺達にそう答えた。
「アポクリファル様ッ。
どうせなら…
アノ者達はあのままこの場に留まらせて置けば
良かったのではッ?」
「リュシウムよ、
そうは言ってものう…。
儂はナルガネ・ケイガを迎え撃つ上で
あの者共にかまけておく余裕は無かったしのう。
一応彼奴等は儂らと手を組んでいる間柄じゃ。
最低限、その命は保障してやらればなるまいて。
しかしナルガネ・ケイガと戦いながら、
攻撃の余波に巻き込まれない様に気を配るのは
少々無理だったと思うしのう…」
やはりそうだったか…。
アポクリファルとリュシウムの会話から、
三人とは手を組んでいた事実が確認出来た。
これは聖王都への明確な反逆行為である。
此処で捕縛する必要があるだろう。
しかし…
三人が此処から逃げ出してから、
もうだいぶ時が経っているということか?
あの三人は此処で逃がしてしまうと、
後に厄介なことになってしまうのではと、
俺は感じた。
「イロハ、ツツジ。
今からでも何とか、
三人の足取りを追えないか?」




