497話 気の抑制
「魔導将アポクリファル…か。
だったら俺も名乗らせて貰うぞ。
俺の名は鳴鐘 慧河。
あんたの言った通り、
異世界から召喚された勇者の兄だ!」
俺は目の前の老魔族に力強く名乗りを上げる。
そして心の中で光の精霊ヒカリに向かって叫んだ。
「ヒカリ、魔力接続を頼む!」
「りょーかい、お兄ちゃん」
俺の身体にヒカリの魔力がどっと流れ込んで来て、
今まで抑えられていた魔力が元に戻った。
「フォフォフォ…
お前さんは魔力が無いと聞いていたのじゃが。
もしや”何かと契約”でも…
したのかのう?」
…鋭い。
流石は魔界でも最年長の魔族と言われ、
魔界一の魔導学者と言われるだけの事はあるか?
俺は魔騎士ディラムより聞いた、
魔導将についての事柄を思い出していた。
この魔族の前では俺はなるべく
手の内を明かさぬ方が良いと俺は感じていた。
その深き観察眼は全てを見透かして…
俺は丸裸にされてしまう危険性を感じたのである。
全力戦闘ならばヒカリを
俺の分身として顕現させたい所ではあるが、
此処は控えるべきと俺は判断した。
「まあ儂としては”そんなこと”よりも…
お前さんがこのエゾン・レイギスでは珍しい
”気”の使い手であることに興味がある。
ちょいと、儂に見せてはくれんかのう?」
「あんたとは明確に敵という訳では無いが、
別に味方という訳でも無いだろう?
そんな油断ならない関係であるあんたに、
俺がホイホイと手の内を見せるとでも?」
「そうさのう…
確かにお前さんの言う事は最もじゃ。
それでは少々強引ではあるが、
お前さんが気を使いざるを得ない状況を
作り出すとしようかのう?」
魔導将アポクリファルが
言葉を述べたと同時に、
その身体が掻き消えた。
「…空間移動の魔法かっ!?」
俺は今までの戦いの経験から、
アポクリファルが消えたのは
超高速移動では無く、
魔法による空間移動であると
瞬時に判断する。
この場合の対応は…。
「光防壁!」
俺は光の防御魔法を即座に展開した。
「暗黒撃衝!」
俺の身体を光の壁が覆ったその瞬間に、
闇の攻撃魔法が飛んできて
光と闇は互いに相殺して消滅した。
攻撃魔法が飛んできた俺の背後を見やれば
其処にはアポクリファルの姿。
空間移動魔法で俺の死角である背後に回り込んで、
同時に攻撃魔法を放ったという訳である。
「フォフォフォ…
見事な防御魔法の対処じゃ。
だがのう…儂が見たいのは
”気を使っての対処法”であって
魔法での対処では無いのじゃがのう?
若い癖に、なかなか勿体ぶってくれるわい」
「そうやすやすと手の内を明かすほど
俺は大胆不敵では無いんでね!
光線砲!」
俺のかざした手のひらから
光属性攻撃魔法の光線が放たれて、
アポクリファルに迫った。




