493話 脱皮
「ならば、これならどうだ魔竜!
光然剣!!」
イクシア王子の握る剣の刀身が、
燃え盛るたいまつの如き光に包まれて、
光の刃が形成される。
「何ッ…光の剣だと!?
ガアッ!」
突然現れた光の刃に驚くリュシウムは、
口を開けると魔力を絞って小型の魔力弾を放った。
だが王子は手にした光の剣で両断し霧散させる。
そして剣を構えたまま跳躍。
リュシウムの懐に飛び込んで、
大きく剣を振りかぶった!
「グオオオオッーー!?」
光の斬撃がリュシウムの右肩から袈裟懸けに斬り裂く。
魔竜の巨大な身体を光が突き抜ける。
そしてリュシウムは力無くその場に崩れ落ちた。
「おおおっーー!?
バ、馬鹿な!
リュシウム様がこんなにたやすく
やられる何てことがッー!!」
目の前で自分が忠誠を誓う主が
文字通り瞬殺されてしまい、
慌てふためいて叫ぶゴルザベス。
「フォフォフォ…
魔力数値300以上の差があったにも関わらず
一刀で斬り伏せるとは…
これこそが光属性の”補正”というものかのう?」
アポクリファルは微動だにせず、
冷静に分析して感想を述べた。
「イクシア殿下…お見事です!
このバイアン、その御力に感服しましたぞ」
「流石はイクシア殿下。
我ら教会と同じ光の力を持たれるだけのことはありますじゃ。
強大な魔の力とて、
正しき光の力には敵わぬと実証されましたな」
バイアンとクリストは、
リュシウムを一撃で倒したイクシア王子を賞賛した。
まるで自分達は以前からずっと王子の側であったかの様な言い回し。
見も蓋も無い変わり身の様である。
「き…貴様らア!
アポクリファル様も、
何故そんなに冷静なのですかっ?」
「フォフォフォ…
まだ慌てる時じゃ無いのう人間の領主よ。
まあ見てみい?」
アポクリファルが人差し指を突き出して
倒れ伏しているリュシウムを指し示す。
それと同時に、魔竜の巨大な眼がこちらを向いた。
「なるほど…
コレが光属性の”補正”というモノか…
このブザマ振りは…
たかが人間とみくびったワレの完全なる落ち度…
ならば今度は油断することなく…
全力で相手をしようでは無いか!」
光の剣で斬り裂かれて全身ボロボロの姿の魔竜リュシウム。
ふいにその巨大な背中が割れた。
そして中から、傷一つない”新しいリュシウム”が現れた。
「これはまさか?
成長途中のドラゴンが行うという”脱皮”か?」
「その通りだ人間の王子よ。
ワレは魔竜としては若輩。
脱皮をまだ残している…この意味がわかるな?
つまり大きな手傷を受けても
古い皮を脱ぎ捨てることで
傷一つない新たな身体に生まれ変わり…
更に力を大きく増すことも出来るのだッ!」
イクシア王子が掛けている
片眼鏡型の見通しの眼鏡に表示された、
リュシウムの魔力数値が急激に上昇した。




