477話 貴族令嬢騎士の叫び
「ツツジ、ちょっとの間で良いですから…
あたくしに貴女の見通しの眼鏡を貸して下さいまし!」
イロハが突然に堰を切ったように声を荒げて、
ツツジに見通しの眼鏡の貸与を要求した。
「…??
…わかったわ、イロハ。
…ど、どうぞ…」
ツツジはイロハの剣幕に驚きの表情を浮かべながらも、
自身が掛けている見通しの眼鏡を外すとイロハに手渡した。
イロハは受け取った眼鏡を掛けると俺に向き直り、
自信たっぷりの謎のドヤ顔を見せた。
…えっ?
何でドヤ顔なんです??
「さあケイガ兄様!
眼鏡を掛けたあたくしに、
何か思うところは無くて!」
「お、思うところ…??
そ、そうだなあ…
イロハの頭が良くなった様に見える…とか?」
「そういう見た目のことじゃありませんわよケイガ兄様!」
「えっ、違うのか?
だったら…どういうことなんだ?」
「んもう!
いけずにも程がありますわよ兄様!
ほら…あたくしと兄様は今…
眼鏡を掛けた者同士…
お揃いじゃないですか…?」
イロハは頬を赤らめながら言葉を述べた。
「ああ、確かに…そうなるなあ」
「…ええっ?」
「ん?」
「……」
「??」
「…ケイガ兄様…」
イロハは突然顔を強張らせると、
わなわなと全身を震わせた。
「どうしたイロハ?」
「ケイガ兄様あ!
これは明らかな妹格差ですわよおおーー!!」
イロハの絶叫が。
防音対策された馬車の窓に跳ね返り
馬車内にこだました。
「きゅ、急にどうしたんだイロハ?
一体何が妹格差なんだ…?」
「先ほど兄様はツツジに”お揃い”と言われて明らかに動揺して、
その凛々しいお顔を緩まれたでは無いですか!
それなのに、
あたくしに”お揃い”と言われても…
全く動揺することなく、眉一つ動かさないなんて!
これが妹格差では無くてなんだと言うのですか!」
う、ああああああ…
俺はツツジに”お揃い”と言われてデレデレした顔を
妹たちに晒してしまって居たということか…。
兄として俺は恥ずかしかッ!
生きておられんごっ!
俺は湧き上がる羞恥感にさいやまれながら、
動揺振りを表情に出してしまっていた
自分の兄としての未熟さを猛省した。
「だけど…違うぞイロハ。
俺は君とツツジを妹格差何てしていない。
俺は妹たちを皆平等に思っている」
「では何故あたくしには何も反応無しなのですか!」
「それはなあ…
タイミングと言うか…
シチュエーションの違いというか…。
イロハ、少し考えて見てくれ?
自身たっぷりのドヤ顔で俺を見据えた後に
急に”お揃い”と言われても…
何も心にドキッとしないと、
そうは思わないか?」




