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459話 竜穴の同居者たち

「ぐぬううううう…!」


 苦悶の声を上げる魔竜リュシウム、

 それをよそに魔導将アポクリファルは自身の顔に掛けた

 『見通しの眼鏡(スカウターレンズ)』に映し出された

 リュシウムの魔力数値を確認する。


「ふむ、魔力数値450…お前さんの魔力を半分以上を抑制出来ておる。

だが抑制の数値を上げれば上げる程、

身体に対する負担も大きくなってしまうのう…。


まだまだ改良する余地は大いにあるということじゃわい。

魔力制御魔導具65号の実証実験はこれにて終了じゃ」


 魔導将アポクリファルは自身の指をくい!

 と、招く様に動かした。

 すると魔竜リュシウムの指先にはまっていた魔導具(リング)は、

 ふわりと宙に跳んでアポクリファルの手に戻った。


「よしお前さん、

コレは12番研究室にある青色の箱に閉まっておいてくれんか」


「はい、アポクリファル様」


 魔導将は自分の背後に控えていた

 ひとりの年端も行かない少年に魔導具(リング)を手渡した。

 彼は魔導具(リング)を大切そうに(たずさ)えると、

 竜穴(ドラゴンホール)の中央空間(ホール)の岸壁にある

 【12】と書かれた扉へと駆けて行った。


「オオオ…

ようやく一息つけるッ…」


 魔導具が外れて身体が自由になったリュシウムは

 長い首を丸めてその場にうずくまった。

 休息する魔竜に対して

 ひとりの年端も行かない少女が駆け寄って来た。

 先程まで魔導具(リング)が嵌まっていた巨大な竜の指に向けて

 持っている水瓶を傾けて中に入っている水を掛けた。


「オオ…これは心地良い…」


 少女の持っていた水瓶の中に入っていたのは、

 魔力を浸した【魔水】。

 魔導具(リング)にて

 少なからずダメージを受けたリュシウムの指に

 【魔水】を掛けることで

 効率よく魔素を吸収させて回復させたのである。


「感謝するぞ人の幼子よ」


 リュシウムは自分の指を処置した少女に向けて礼を言った。


「リュシウム様のお役に立てて何よりです」


 彼女は魔竜を見上げて笑顔でそう答えた。


「さて、今日の魔導実験は此処までにしようかのう。

さあ子供(わっぱ)たち、夕食の準備じゃ!」


「はい、アポクリファル様!」


 竜穴(ドラゴンホール)のあちこちから

 年端も行かない少年少女たちが

 中央空間(ホール)へと一斉に集まって来た。

 子供たちは協力して机と椅子を運ぶと、

 中央空間(ホール)の中央に鎮座する

 リュシウムの前に並べた。

 そして今度は研究室のひとつを改造した

 調理部屋へと一斉に向かい、

 皆で夕食の準備に取りかかった。


 彼、彼女たちは親の居ない孤児であり教会に育てられていた。

 だが、教会長クリストによって

 魔竜リュシウムへの生贄として

 此の竜穴(ドラゴンホール)へと連れて来られた。

 教会は最初の三人の生贄以降も、

 定期的に子供たちを生贄として送り付けて来たのである。


 魔導将アポクリファルは

 そんな子供たちを丁重に扱って、

 この竜穴(ドラゴンホール)

 自分達と共に住まわせたのである。

 そして魔導実験の手伝いの仕事を与えた。

 彼等は元々教会で下働きをしていた為に

 仕事の飲み込みは早かった。

 そして自炊、掃除、洗濯、寝床の準備といった

 自分達が生きる為の術も教会で学んでいた為、

 此処での暮らしにすんなりと馴染んでいったのである。

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