457話 研究し甲斐の生物
「魔竜リュシウム殿、
これはわれら教会からの捧げものになりますじゃ。
どうぞお受け取り下さいませ」
教会長クリストはそう述べると深々と頭を下げる。
すると帆車の中から三人の年端も行かない少女たちが降り立った。
そして巨大な魔竜の前に歩み出て平伏した。
「この三人の者達はわが教会の敬虔な信徒、
身も心も清らかな処女でございます。
彼女らは自らの意思で、
教会の為に、
人間の為に、
リュシウム殿にその身を捧げ、
その贄となることを決めたのです!」
「「「偉大なる魔竜様、私達の全てを貴方様に捧げます!」」」
三人の少女は一斉になって、
リュシウムに自らを捧げる言葉を上げた。
「…ア、アポクリファル様ッ!
これは一体ッ!?
何だというのですッ??」
リュシウムは目の前の出来事が理解できずに、
魔法による念話で繋がったままのアポクリファルに問い掛けた。
「リュシウムよ、
これは生贄という奴じゃな。
人間の世界では人身御供とも呼ばれておる。
なるほどのう…。
若い人間の女の穢れなき肉体と魂なら、
下位魔族の力を高める良き贄ともなるじゃろうな。
これならば下位魔族が人間と手を組んだ判断も納得もできようのう。
単純に下位魔族の”最高質の餌”を
取引材料として人間に掲示されたのじゃからな」
「そ、そんな…
人間は…
同胞を…
それも年若い者を…
この様に今に至るまで…
犠牲にして来たということなのですかッ…?」
「そうさのう。
儂ら数が少ない魔族からすれば、
貴重な若い者を使い捨ててその犠牲の上に
年寄りが生き永らえる等は考えられぬが…
数が多い人間からすれば、
年若い者はすぐに生まれるから
幾らでも使い捨てることが出来るという考えなのかのう?
しかし生贄になっている人間の女たちの様子を見るに…
この教会という宗教組織は、
所属する信者から何の抵抗も無く
生贄という犠牲を排出出来る
出来た組織形態ということになる。
人間の世界の宗教の言葉で言うのなら、
”殉教”とでも言うものかのう?
生命力あふれる年若い個体に
自発的に死を選ぶという云わば自殺意識を植え付けるとは…
最早たかが人間の組織とは言えんのう、
大したモノじゃ…。
若い者を犠牲にして年老いたものが繁栄する、
これが人間という生き物か…
500年の時を経てこの様に至ったということかのう…
全く持って興味深い…
研究し甲斐の在る愚かな生き物じゃて…」
魔導将アポクリファルは
魔族である自分の思考では考え付かなった
人間の思考に対して驚嘆の言葉を口にした。




