455話 教会の意思
「ほう…教会となれば、
まさに率先して我等魔族を滅ぼさんと思考する者たちであろう。
魔力の数値は低いが、
希少な光属性を持つ者をそれだけの数で揃えるとは…
なかなかの組織力と褒めてやろう。
その光の魔力の多勢で持ってワレを討ちに来たか?
良かろう!
この魔竜リュシウムが返り討ちにしてくれるわッ!」
リュシウムは凄まじい咆哮を上げた。
地を震わせる大音量が周囲を荒れ狂い、
眼前に並ぶ神官と教会騎士の耳に突き刺さった。
彼等は立っている事も出来ず、その場に膝を崩す。
「お待ち下さいリュシウム殿!
われら教会は貴方様と争う気は元よりございません!
ですから…どうかお気を沈めになって下さいませ」
教会長クリストはリュシウムに向かって平伏し
再度深く頭を下げた。
しかしリュシウムは自身の持ち得る竜の鋭い感覚で、
クリストの平伏の態度とは裏腹に、
彼の背後に並ぶ教会騎士が
自分に対して何時でも攻撃できるように
戦意を抱きながら密かに戦闘待機をしている事に気付いていた。
つまりクリストの言葉に耳を傾けなかった場合、
教会騎士100人の攻撃を即時受けることになるだろう。
彼等のうち半分は光属性魔力を持っている。
魔族にとって天敵である光属性攻撃を多数で受けては、
魔竜である自分とて
少なくないダメージを受けるだろう。
だが負けるつもりは全く無い、
戦うつもりなら受ける迄と、
リュシウムは身構えた。
「リュシウムよ、
とりあえずはあの教会長の話を聞いてみることじゃ。
返り討ちにすることはそれからでも出来よう」
そんな戦う気満々のリュシウムに対し、
アポクリファルからの魔法による念話で諫める言葉が掛けられた。
若き魔竜の猛る戦意に水を掛けられたリュシウムは冷静さを取り戻す。
「…アポクリファル様、了解したッ!」
リュシウムは念話でそう答えると、
自分の眼下で平伏するクリストを見据えた。
「…戦うつもりは無いと言ったな教会長クリストとやら?
ならばオマエは何の目的で此処に来た?
オマエたち教会の目的は我等魔族の殲滅では無いのか?」
「いえいえ…そんな…
われら教会の目的は、
偉大な御力を持つ貴方たち魔族と戦うことではありません。
愚かな王族、貴族、民たちといった人間の愚民たちを思想統一し、
支配する事がわれらの目的なのですじゃ」
「…なん…だと…?」
教会長を名乗る目の前の年配の男が述べた、
彼の同胞たる人間に対しての言葉とはまるで思えない、
予想だにしなかった鬼畜の如き台詞に…
魔竜リュシウムは驚きの言葉を口にした。




