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452話 魔力をゼロに

「リュシウム、お前さんの声帯を借りるぞ。

ここは儂自らバイアンと話すとしようかのう」


「アポクリファル様、了解した!」


 魔竜リュシウムは商人バイアンを見据えると口を開いた。

 それと同時に魔導将アポクリファルは、

 リュシウムの声で言葉を放った。


「商人バイアンよ。

オマエが先ほど述べた望み、

”交易”をワレは許可しようではないか。

ならば我等魔族からはこの腕輪、

魔界の技術で造られた魔導具を交易の品としよう。

この魔導具は装備した者の魔力をゼロにする効果がある」


「何ですと!

魔力をゼロに!?」


「…人間に取ってはたいした効果のある

魔導具では無かったか?」


「いえいえ、そんなことは決して!

実際に身に着けて試したいのですが宜しいですかな?」


「構わん」


リュシウムの眼前に浮いていた腕輪は

ゆっくりと降下するとバイアンが広げた両手のひらに収まった。


「それではさっそく…」


 バイアンは自分の背後に控えていた部下に腕輪をはめさせると、

 自分の見通しの眼鏡(スカウターレンズ)を起動させて

 部下の魔力数値を測定する。


「おお…

確かに…

本当に魔力数値がゼロですな…」


 バイアンは腕輪の効果に驚きの言葉を漏らした。


 この異世界エゾン・レイギスに生きとし生けるものは

 全て魔力を持って生まれて来る。

 つまり魔力探知魔法を使える者が居るか、

 魔力を測定できる見通しの眼鏡(スカウターレンズ)があれば

 この世界の全ての生物の位置を特定出来るという訳である。

 視覚的に姿を隠すことが出来ても、

 魔力を感知される以上その身を完全に隠すことが出来ないのである。


 魔力を霧散させて解りにくくする素材はあるが、

 物理的に完全に魔力を遮断するという素材は存在しない。

 つまり自身で魔力を操作して

 魔力数値をゼロに抑えることが出来ない限り、

 完全に自分の位置を隠すことは出来ないのである。

 しかしエゾン・レイギスの数ある生物の中でも、

 人間の魔力の操作技術は下から数えた方が早く、

 魔力をゼロにする様な器用な芸当が出来る者は

 高い魔力操作技術を持った極限られた者だけなのである。


 しかしこの腕輪があれば

 高い魔力操作技術など無くても、

 つまり普通の人間どころか極端な話…未熟な赤子でも、

 魔力をゼロに出来て完全に身を隠すことが出来るのだ。


 魔導将アポクリファルからすれば魔力抑制の数値はたったの-200、

 装備時には大きく体の動きが制限される副作用があり、

 所詮は失敗作の魔導具であった。

 だが種族としての基本平均魔力が低く、

 魔力数値200以上という者は極々稀でしかない人間に取っては…

 実質魔力をゼロにしてくれるこの魔導具は、

 非常に有用性の高いシロモノであった。

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