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451話 交易

 魔界と地上、

 魔族と人間とでは共通する価値、

 即ち貨幣が存在しない。

 故に商売として成立させるにはモノ同士の交換、

 物々交換が基本となるだろう。


 例えばリュシウムが魔導実験の為の質の良い資材を

 バイアンから得ようとするならば、

 その資材に見合っただけの何かのモノを

 バイアンに渡す必要があるという訳である。


 バイアンはリュシウムに対して

 モノとモノを交換し合う取引、

 ”交易”を望んだ。


「ふむ…交易か。

こちらからは何を品物とするのか考え物じゃのう」


「アポクリファル様、

本当にこの人間の商人と取引をされるのですか?

ワレの眼には、

魔族側にとってそう利があるように様には見えないのですが」


 魔導将アポクリファルと魔竜リュシウムは

 人間にバイアンに気付かれないように

 魔法による思念で会話をする。

 

「確かにそうじゃのう。

儂ら魔族からすれば別段、

人間と取引をする必要には駆られ無いのう。

実験資材も質は下がれど領主から得られるし、

そもそも時間と手間が掛かるが儂らで準備することは出来る。

だが…あちらさんからすれば、

儂らとの交易は魅力的なものに映っているじゃろうな」


「と言いますと?」


「あのバイアンという商人はのう、

儂ら魔族との独占交易を狙っておる。

現状、人間の手に儂ら魔族の品物が入ることなど皆無じゃ。

だが儂らとの取引が成立すれば、

バイアンの手には今迄見たことも無かった魔界の品物が手に入る。

その希少さは人間同士の取引において

爆発的な利益を生み出す可能性がある訳じゃな。


野心を持って近付いてくる者は

其処を上手く利用してやれば、

こちらの意図で持って(ぎょ)しやすい。

だから儂はあえて奴さんの望みに答えてやろうと思うんじゃよ。


そして…儂ら魔族と人間の交易が、

人間という種全体にどのように波及するのかも見てみたいしのう。

これは魔導学者としての(さが)による研究欲…

行ってしまえば只の年寄りの我儘じゃがのう。


まあ全てはこちらが提示する交易品の有用性次第という事になるんじゃがな」


「しかしアポクリファル様、

こちらから有用性のある品物を交易品として提供されては、

人間に大きく利を与えることになりませんか?

その結果、ゆくゆくは我等魔族そのものに

不利な状況を生み出す事にも成るのでは?」



「そこは調整が必要じゃろうな。

儂ら魔族に取ってはそう価値がないものが良いのう。

かといって、

全く無価値のシロモノではバイアンが納得せんじゃろう。


…そうじゃ、

アレが良いじゃろう」


 アポクリファルは人差し指をくるりと回した。

 すると竜穴(ドラゴンホール)

 中央空間(ホール)の片隅に置いてあった宝箱の一つがぱかりと開き、

 中からひとつの腕輪がふわりと宙に浮いた。

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