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450話 商人の求めるモノ

「この地を治める貴族ゴルザベス様は

既にリュシウム様の配下になられたと聞いております。

私もリュシウム様とお近づきになればと思い、

少々なれど手土産を持参いたしました。

どうぞお納めくださいませ」


バイアンの後ろで台車を引いていた男達が

魔竜の前に二台の台車を差し出した。

一つ目の台車には金と銀、

二つ目の台車には屠殺(とさつ)された食肉用家畜が積まれていた。


やはりこの者もワレを金銀財宝と肉に飢えた獣風情と侮るか…。

いやこれが並のドラゴンに対する人間共の常識ということか…?

リュシウムは沸き立つ怒りの感情を抑えながら、

目の前に捧げられたモノに目を通す。

彼の鋭い竜の感覚がその”質”を見通した。


「ム…これは…

金銀の純度が随分と高いな…

そして家畜の肉は厚い…」


「流石は偉大なる魔のドラゴン様…

見事な慧眼(けいがん)でございます。

そうです我が商会が用意したモノは全て最高の質!


先にゴルザベス様が貴方様に寄こされたモノは所詮、

領内に住まう民たちから無理強いに徴収したモノ。

民たちも進んで良質なモノを渡すワケも無く…

質が悪くて当然なのです」


「なるほど…

以前に領主が捧げたモノはその様な経緯であったか。

商人バイアンとやら、

オマエが領主ゴルザベスとは違い、

良質なモノをワレに提供出来るということは良く分かった。

その御業(みわざ)をワレに知らしめて何を望む?

ゴルザベスを差し置いて、

ワレの最も近しい下僕になりたいといでもいうのか?」



「いえいえ…そんな滅相もありません。

私如き商人風情が、

偉大なる魔のドラゴンであらせられるリュシウム様の配下など…

私どもが望むのはあくまで商売のみでございます。

私は魔族であるリュシウム様と商売における取引関係を結びたいのです」



「ほう…このバイアンという男はなかなか面白い考えを持っているのう。

これが人間の商人のみが持つという…

商人魂(あきんどだましい)という奴なのかのもしれんな」


 魔導将アポクリファルが魔法でリュシウムの脳内に直接会話をして来た。


「リュシウムよ、

儂はこの男の話に俄然興味が出て来たぞい。

上手くすればこの地上に於いて、

質の良い実験資材が手に入りそうじゃしのう。

このまま話を進めて見るのじゃ」


「アポクリファル様、心得た!」



魔竜リュシウムは脳内でアポクリファルにそう答えると、

目の前のバイアンを見下ろしながら言葉を紡ぐ。


「良いだろう、商人バイアンよ。

オマエの望む商売の取引関係というモノを

ワレに話して見せるが良い」


「おお、流石は偉大なる力を持つ魔のドラゴン様であらせられる!

私の様な取るに足らない、

商人風情の言葉を耳を貸していただけるとは!

それではさっそく」


 商人バイアンは喜々すると、

 目の前にそびえたつ巨大な魔竜に対して

 論説(ろんせつ)を聞かせた。

お読み頂きありがとうございました。

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