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436話 魔導軍の客人竜

「アポクリファル様、

この沢山の数の扉は一体…?」


魔竜リュシウムは洞窟の巨大な空間(ホール)の剥き出しの岩壁に

無数に設置されている扉という異様な光景に対して疑問を口にした。


「フォフォフォ…

これは全て魔導研究の為の小部屋じゃよ。

各部屋でそれぞれ違う研究をしておる。


魔導研究は一歩間違えば大事故になってしまうからのう。

よって魔法防壁で囲んだ頑強な小部屋で個別に行うことで

何かあったとしても部屋内の被害だけで収める様にするのが基本じゃが、

一部屋につき一種の研究では効率が悪い。

だが複数の部屋を準備出来ればその分だけ同時に研究できる数も増える。

そこで魔導研究の数が増えるたびに部屋の数も増やしていった結果、

この様になってしまったという訳じゃよ。

まあ、儂に取ってはこれでも部屋の数はまだ足りないぐらいなんじゃがのう?」


 魔族の爺は自身の髭をさすりながら、

 さも当然と言った口振りでつぶやいた。


 オオオ…流石は魔界一の魔導学者、魔導将アポクリファル様。

 あの扉の数からして…

 恐らくはこの山の中全体に渡って無数の魔導研究室が作られているのだろう。

 それでも足りないと言ってのけるとは…

 何という、底なしの研究欲というべきモノ。

 まさに狂魔導学者(マッドソーサラー)の名に相応しい御方ッ…。


「それではリュシウムの住処を決めるとしようかのう?

お前さんの巨躯からして、

この中央空間(ホール)を使うがいいじゃろう」


「アポクリファル様…

この空間(ホール)には玉座も在るのだが…

ここは城で言う所の謁見の間では無いのか?

只の客人であるワレが使ってはマズイのでは無いかッ?」


「なあに、儂はどうせ普段は何処かの研究室におるからのう。

どうせ使っておらん訳だし一向に構わんわい。

それにお前さんたち竜は、

大気や大地に満ちている魔素を糧としているんじゃろう?

だったら自然のままの岩肌になっている中央空間(ホール)は都合が良い筈じゃ。

それに入り口同様魔法でカモフラージュしてあるが、

この中央空間(ホール)は天井が吹き抜けになっておってのう。

山の頂上の空にも繋がっておる。

つまりここに居れば大気の魔素も同時に得られるという訳じゃな。

魔竜(エビルドラゴン)であるお前さんとしては、

身体のサイズ面でも、食料面でも、

このアジト内では此処が一番適所だと思うんだがのう?」


「しかしワレは所詮、

魔竜将ガルヴァーヴ様から貴方に貸し上げられたに過ぎない存在。

そこまで丁重に扱われる云われは…」


「儂ら魔導軍は手勢不足なんじゃよ。

貴重な戦力としてお主を迎えたのだから丁重に扱わせてもらうわい。

それに他らなぬ魔竜将にも

お前さんをくれぐれも大切にせいと念を押さえれて居るしのう。


お前さんはまだ若いから、

実感的に良くわからんかも知れんのう。

儂の魔導軍に限らず

魔族そのものに言える事なんじゃが、

魔族は強いが個体数が少なく常に人材不足なんじゃよ。

特に若い者は貴重じゃ。

数が多いからと言って、

若い同胞を真っ先に使い捨てる人間等とは考えを一緒にしないことじゃな」

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