430話 欲望が招いた種
「ああ…ケイガお兄様…」
魔騎士ディラムとの組手鍛錬に明け暮れる鳴鐘 慧河の姿を見つめながら、
ため息を漏らすポーラ姫。
「どうしたんだいポーラ?
そんな深刻そうな表情をして?」
「ミリィお姉様…。
大変ですの!
このままではケイガお兄様をディラム様に獲られてしまいますわ!」
「ええっー!?
何でそんな事になるんだいポーラ?
そもそも、ディラム殿はれっきとした男性じゃあないか!」
「ディラム様相手に組手をなさるケイガお兄様はとても楽しそうですの。
わたくしやミリィお姉様、姫騎士団相手にしている時とは比べようもなく…
ですわ!
大体ミリィお姉様の所蔵の本にもあったじゃないですか?
殿方同士でも愛を育むという事柄が…」
「君はあの写本まで読んでいたのかいポーラ!?
あれは異世界の”ドウジンシ”と呼ばれる書物を書き写したものらしいのだけれど、
原本は喪失しているからね、
ああいった事実が本当にあったかどうかは疑問だよ?
大体おかしいよね?
同性同士でなんて?
雄と雌でつがいを作って生み増えていく生き物の定理を
完全に否定しているんだよ?
…ホ〇が好きな女子なんかいないんだよ!」
「ストップ!
ストップですわミリィお姉様!
今の発言は何か…
多くのひとを敵にしてしまった気がしますわ…。
早く謝ってください!
早く謝って!」
「わ、わかったよ…
今のは言い過ぎだったよ…ごめん。
って、一体ボクは誰に謝っているんだい!?」
「それよりもミリィお姉様。
今は目の前のお兄様についてですわ。
このままではケイガお兄様は…
これからはじっとディラム様と毎日しっぽり組手鍛錬をすることになって、
わたくしたちとは今後一切シてくれませんの!」
「何か紛らわしい物言いは辞めたまえポーラ!」
「だってだってですわミリィお姉様!
前にお兄様が魔力数値を上げる為に、
わたくしやミリィお姉様と毎日毎日…
あんなにもシたじゃないですか!
魔力をぶつけあう組手を!
わたくしは鍛錬に付け込んで、
お兄様といっぱい触れ合えて…
とても幸せな時を過ごせましたわ!
あわよくばお兄様の御心をわたくしに向けさせたくて、
どさくさ紛れにお兄様の身体にいっぱい触れましたわ!
その度にお兄様は心揺らされてましたの!
ああ…やっぱりお兄様はとても純情で可愛らしいですわ…」
「ポーラあ!
君がそんな下心全開で組手をするから!
兄君様は、
そんな下心が一切ないディラム殿との組手にとても喜んで、
あんなにものめり込んでいるんじゃないのかい!?」
「そ、そんな…
つまりこれは…
わたくしが招いた種ですの…?」
ポーラ姫はがくりと膝を付いて、その場に崩れ落ちた。




