402話 心配される兄
俺は静里菜を抱き締めたまま、
その可憐な頭を撫で続ける。
「あの…
兄さん…?
急にどうしたんですか?」
静里菜は突然俺に強く抱擁されて、
更には頭を撫でられて、
驚いている様子。
「これは…そうだなあ。
兄としてのお礼だな」
「お礼…ですか?」
「静里菜は
再び俺にコンタクトを取るために、
高度な巫術を使ってこの精神世界を構築して来てくれた。
前の時は色々あってお礼をする時間は無かったけど
今回は最初から解っているからなあ。
子供の頃の静里菜を
褒める時に俺は頭を撫でてたのを思い出して、ついなあ。
でも急で嫌だったか?
だったら止めるけどな」
「そんなことはありません。
わたし、兄さんの大きな手が大好きです。
これは願ったり叶ったりです。
それではわたしをいっぱい愛でて下さいね」
「よし来た、静里菜」
俺は静里菜の頭を撫で続けた。
当然ながら彼女を撫でる理由は後付けである。
俺は今、どうしても彼女を
可愛がる必要があったのである。
俺は兄なのだ。
兄は妹を可愛がるものなのだ。
妹を甘やかすものなのだ。
妹に頼られるものなのだ。
兄が妹に可愛がられては、
兄が妹に甘やかされては、
兄が妹に頼っては、
いけないんだ!
それが兄としての心得、尊厳、プライド。
だが俺がこの精神世界で目を覚まして見れば、
妹である静里菜の膝枕の上。
言うなれば俺は、
妹に可愛がられていたのである。
俺は言わば兄としては完全失格状態であった。
其処から必死に態勢を立て直し、
静里菜を抱き締めて、
頭を撫でて、
全力で可愛がった。
形勢逆転!
俺は此処に、
兄としての尊厳を、
プライドを、
取り戻せたんだ!
「…兄さん!?
泣いているのですか…?」
静里菜の問いかけに俺ははっと我に返った。
彼女の言う通り、俺の頬には一筋の涙が流れていた。
「…あ、ああ…
これは…
感極まったのかな…?
ははっ、参ったな…」
俺は頬の涙をぬぐった。
そんな俺の手を静里菜は両手で覆った。
そして俺の顔をまっすぐに見つめた。
「兄さん、
一体どうしたんですか?
どうかわたしに…話してください」
静里菜の綺麗な瞳が俺をまっすぐに覗き込んだ。
彼女は俺を心底心配しているのが見て取れた。
そりゃあ16年来の兄が、
突然自分を強く抱きしめて
自分の頭を撫でまくった挙句に、
涙まで流されちゃなあ…
挙動不審過ぎて心配するのも無理はないだろう。
静里菜は昔から察しのいい妹。
下手なごまかしは逆に迷惑を掛けてしまうだろう。
俺は自分がこの様になった経緯を話すことにした。
ポーラ姫の攻勢によって俺の兄としての尊厳が崩壊寸前になり、
間一髪逃げ延びた先でカエデにバブミを感じて
兄としてのゲシュタルトが崩壊寸前になり、
止めはこの精神世界で静里菜に可愛がられてしまう。
俺の兄としての心はボロボロだ!
いや…そんな直近の事だけを話しても、
静里菜には解るわけが無いだろう。
一から話すことが必要である。
つまり…俺の異世界における妹遍歴を全て話さなければならない。
そもそも彼女がこの精神世界を構築して
俺にコンタクトを取って来たのは
互いの詳細な状況の確認なのである。
だからこれは俺の挙動不審振りには関係なく…
話すべき事柄なのだ。
俺は異世界エゾン・レイギスに飛ばされて、
静里菜から別れてから
今迄の経緯を話す事にした。
光の神殿での光の精霊との出会い、
神殿を出てからの魔族の騎士ディラムとの戦い、
エクスラント聖王国のポーラ姫、ミリィ、姫騎士団との出会い、
俺と同じく異世界に飛ばされていた黒川課長たちとの戦い、
そして魔言将イルーラ率いる魔言軍との戦い、大魔王と戦い、
そして魔竜軍との同盟…。
俺は静里菜に、
異世界で起きた出来事を時空列に
なるべく簡潔に説明し聞かせた。
この異世界での新たな妹たちのことも含めて。




