401話 反攻する兄
「兄さん。
苦しそうな顔…。
まだ、お疲れなのですね…。
此処はわたしが巫術で生み出した精神世界。
今このセカイに居るのはわたしと兄さんだけです。
ですから気兼ねなく休んで、
ゆっくりと疲れを癒してくださいね」
静里菜はそう言って俺の額を優しく撫でる。
まるで子供をあやす母親の様に。
彼女の柔らかい太ももが、
彼女の柔らかい手の感触が、
彼女の可愛らしい声が、
その全てがとても心地良い。
自分の兄のしての至らなさ、ふがいなさ、
その他もろもろの感情が入り混じって、
俺の荒ぶった心が…
静里菜によって急速にほだされて、
穏やかになっていく。
静里菜はいつもにこやかで平常心、
たいてのことでは動じない、
どんなことでも受け止めてくれる
出来た子であった。
だけど…どんなに人としての器が大きくても、
彼女はあくまでも俺の妹なのである。
だから俺は今まで静里菜とは、
あくまで頼れる兄として振る舞い
接してきたのである。
だが今の俺は…静里菜に身体を預けてしまっている。
兄である俺が妹である静里菜に可愛がられているのである。
兄と妹の関係が逆転している。
兄である俺が妹の静里菜に頼っている状態だと…?
カエデに続いて…
妹歴16年の静里菜にまでも俺は…
バブみを感じてオギャるのか!?
ち違う!
そんなことは断じてッ!!
そんなことはあってはならないんだーー!!
「う、うあああああーー!」
俺は声を上げると、
彼女の手を遮って、
膝枕からころりと横回転して滑るように高速離脱する。
そして跳ね跳ぶように身を起こして瞬時に立ち上がった。
「兄さん?
急にどうしたんですか?」
静里菜は、
俺が突然大声を上げながらニンジャの様な素早い動きで
瞬時に立ち上がったことに驚きつつも、
彼女自身も追って立ち上がり俺を心配する言葉を掛けた。
「違う、違うんだ…
俺は…俺は…俺は!
兄なんだ、兄さんなんだ!
鳴鐘 慧河は…
静里菜の兄さんなんだ!
兄として譲れないプライドがあるんだああああーー!
う、うおおおおおおーー!
静里菜あッ!」
「きゃっ!?
に兄さんっ??」
俺は静里菜の身体を抱き締めた。
「あン!
急に兄さんったら…
そんなにも強くッ?」
俺は彼女を強引に、
まるで奪い取るが如く抱きしめた。
静里菜に有無を言わせない様にわざと強く。
そして彼女の後頭部に右手を添えて、
優しく愛でる様に、
撫でる。
撫でる。
撫でる。
俺は高速で手を動かして、
静里菜の頭を撫でまくった。