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第390話 音速の交錯

 ポーラ姫は俺に向かって両手を広げた。

 この姿勢は知っている。

 俺の胸の中に飛び込む時の姿勢である。


「お兄様!」


 …来るッ!


 俺は彼女の声が耳に届くと同時に

 両手両足にをバネの様に弾ませてベッドから跳躍、

 ポーラ姫の抱き付き攻撃をかわし切った。

 彼女の美しい両腕は大きく空振って、

 自身の身体を抱き締める様に収まった。


 今のは危なかった…

 あんなに強く抱きしめられてしまったら、

 ポーラ姫に心をズキュウウンされた今の状態の俺では

 色々と耐えられなかっただろう。


「お兄様!」


 ポーラ姫はくるりと(きびす)を返すと、

 俺の胸の中に再度抱き付いて来た。

 …おっと!?

 俺は身体を逸らしてかわし切る。


光の加護(ライトフォース)!」


 ポーラ姫は身体能力強化魔法を行使する。

 魔力の光が彼女の身体を包み込む。

 次の瞬間、その身体が俺の視界から掻き消えた。


 …速いッ!?


 ポーラ姫の華奢な体躯が高速で駆けて俺の胸の中へ飛び込んで来る。

 俺は気を集中させ近接格闘の構えを取ると間一髪、

 彼女の音速抱き付き攻撃をかわし切った!


 俺は以前、

 ポーラ姫がミリィやシノブさん相手に

 身体能力強化魔法を行使しての近接戦闘を行い、

 その腕前が相当なものだと認識している。

 だが…傍目で見るのと実際に対峙して体感するのでは

 段違いだと思い知らされた。


 ポーラ姫は両手を伸ばし身体を音速で跳ね跳ばさせて俺の胸の中へと肉薄する。

 俺は両目を見開いて彼女の動きをギリギリまで見極めて、

 最小の動きで身体を逸らし躱し切る。


「やああああーー!!」

「うおおおおーー!!」


 ポーラ姫と俺の声が部屋内に響き渡る。

 部屋の中央にあるベッドを中心にして音速で交差するふたり。


「はぁはぁ…お兄様…。

どうして…わたくしを避けますの?」


「…ポーラこそ…

何でそんなに執拗に俺に抱き付こうとするんだい?」


 互いに牽制の言葉、

 そしてその理由はわかっている。


(お兄様が先程わたくしにドキドキしたのは見てすぐにわかりましたわ。

オリハルコンとヒヒイロノカネは熱いうちに打て!

このまま貴方の胸の中に飛び込んで、

わたくしの身体を深く刻み込んであげますわ。

ふふふ、待っていてくださいねお兄様。

これからはわたくしのことしか考えられない様にして差し上げますの!)


(ポーラは国を治める王族、

俺如き一般人の心の動きなど手に取る様に解る。

つまり俺がさっき君にズキュウウンされたことなど…

とっくにご存じなんだろう?

俺は地球からやって来た生まれて25年の筋金入りの童貞!

これ以上、金髪碧眼巨乳美少女プリンセスで

超ド級ファンタジーヒロインな君にスキンシップされようものなら…

色々と耐えられる訳が無いだろう!

このままでは俺の男としてナニカが暴走してしまうあああああーー!

…俺は自分の兄としての、そして男としての尊厳を守るッ!!)

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