第38話 一応の決着
「光防壁!」
「魔防壁!」
ポーラ姫とミリィが防御魔法を展開する、生み出された魔法の光の2重防壁は襲い来る無数の火球の魔法攻撃から俺たちを守った。
これは黒川の仲間の攻撃魔法か? 黒川の逃走を支援するための攻撃だろうが、何て凄まじい数の攻撃。
自身の保険の為に幾重もの策を講じて自分たちの戦力を伏せていたという訳か…悔しいが流石は黒川課長、としか言いようがない。
「…逃げるな! あたしは、あの女を!」
優羽花は僅かに回復してきた目を凝らして此処から高速で離脱していく黒川を追いかけようとする。
俺はそんな優羽花を抱き止めた。
「どいてお兄! あの女殺せない!」
「優羽花、もう黒川は完全に逃げた。それにもういいんだ、お前が手を汚す必要はない」
「だって…あの女のせいでお兄が…ずっと引籠りになって…あたし…あんなお兄見てられなかった…。
そんなあいつが…それでも飽き足らず今度はお兄の命も奪おうとして…だからあたしは、あたしはあの女をっ…うああああああああ!!」
優羽花は俺の胸の中で泣き出した。ああ、俺が弱いばっかりに…かけがえのない大切な妹にこんな思いをさせてしまった。
「ごめん優羽花…」
俺は愛しい妹の頭に優しく包むように手を添えて、あやすように撫でた。
「お兄…お兄…」
俺は、強くならなければならない。
優羽花に、愛しい妹に、二度とこんな思いをさせない為に。
「ぐ、ぐううッ…一体何だというのよあの小娘ェ…このワタシが、こんな無様にやられるなんて…ハァ…ハァ…」
高速で駆ける赤い身体をしたゴウレム、コア・ゴウレムに乗って戦闘域から逃走する黒川は優羽花に平手打ちされて歪んだ自身の顔をさすりながら口を開いた。
そして全身にも痛みが走ってその激痛に呼吸を荒げた。
どうやら幾つかの骨も損傷している様である。
「お疲れ様です黒川部長、こちら回復魔法です、回復!」
コア・ゴウレムの肩口に一人の男が飛び乗って来て黒川に回復魔法をかける。
彼女の歪んだその顔がみるみると治っていく、全身の痛みも引いていく。
「…中森主任、御苦労。部下全員の撤退と笹川係長の回収も問題ないのかしら?」
「はい黒川部長、撤退は滞りなく。笹川係長は別の者が回収して回復魔法で治療中です」
「ワタシの部下は全員魔力数値100以上。このワタシがこの世界の覇権を握る為の大切な戦力のコマなのだからこんな所で失いたくはない。
そしてこの世界に来て増長し、人殺しに一切の躊躇が無い殺人マシーンと化した係長も上手く扱えば良く働いてくれる大切なコマ。
死なない限りは回復魔法で何度も再利用させてもらうわ。
姫と公爵の暗殺は完全に失敗ね…こちらが把握していなかった相手の未知の戦力が規格外過ぎたわ。
依頼主の不興は買うけど我々はこのまま撤退して立て直しを図るのが賢明ね、命あっての物種よ。
…それにしてもあの小娘…このままでは済ませないわよ! 覚えているがいいわッ!」」
黒川は自分の予定を狂わせて無様に地に這いつくばらせ、苦汁を舐めさせた優羽花への復讐をたぎらせながら、この地から離脱していった。
お読み頂きありがとうございました。
良ろしければ
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