第368話 証明
俺はこの異世界エゾン・レイギスに飛ばされてから今日までの三週間の間、
この異世界についての様々な知識・常識を学んだ。
その中で魔族についてのごく一般的な認識として、
その身体に流れる血は俺たち人間の赤い血とはまるで違い、
青い血が流れるというのが在った。
人間は地上セカイである人間界で生まれた生物。
魔族は地下セカイである魔界で生まれた生物。
生物種としての始まりの環境が全く違う二つの知的生命体は、
流れる血液も全く違うということであった。
だが魔界五軍将・魔竜将の副官であり
生粋の魔族である筈のディラムの血が
俺たちと同じく赤いという事は…
彼自身が言った通り、
その身体に人間の血が流れているという証明ということではないか?
「闇回復!」
ディラムが魔法の言霊を紡ぐ。
次の瞬間、その手に闇が黒雲のように纏わって
血が流れ出ていた小指の切り傷が瞬く間に塞がり血も完全に止まった。
なるほど、これが闇属性の回復魔法というものか。
そしてディラムは傷が塞がった右手をそのまま握り締めて拳の形を作った。
すると揺らめく黒い炎の様なものが湧き上がって彼の拳を包み込んだ。
その拳を包む漆黒の炎の中には時折、
白く輝く炎の様なものが混じっている。
「そ、そんなことが!?
ディラム殿の闇属性魔力の中に僅かだけれど…
光属性魔力が感じられる!」
ミリィはディラムの魔力に目を丸くしながら驚きの声を上げた。
俺が学んだこの異世界エゾン・レイギスの常識のひとつに、
この世界の全ての生き物は
魔力数値の大小の差異あれど魔力を持って生まれて来る。
そして以下の7種の魔力属性のいずれかを持っているというのがある。
風の属性
火の属性
水の属性
地の属性
無属性
闇の属性
光の属性
この中でも
闇属性と光属性は特殊である。
闇属性はこのエゾン・レイギスに並みいる生物種の中でも、
魔族だけが持ちうる魔力属性である。
対して光属性は人間のみが持ちうる魔力属性である。
もっとも、光属性を持って生まれる人間は非常に稀有。
その光の魔力数値が取り分けて高い者が『光の勇者』と呼ばれる。
基本的に生き物が持つ属性魔力はひとつであるが、
稀に例外が存在する。
父母がそれぞれ違う属性魔力だった場合、
その間に生まれた子は
両親の属性魔力を二つ引き継ぐケースが
起きることが有るというのだ。
魔族しか持ち得ない闇の魔力。
人間しか持ち得ない光の魔力。
ディラムはこの二つの属性が混在した自身の魔力を見せることで、
自分が人間と魔族の間に生まれた半魔族であることを証明して見せたのである。




