第367話 人が忘れたかつての時代
「ポーラニア殿下、その反応はさも当然でしょう。
我等魔族と貴女達人間は500年以上の間、
争ってきたのですから。
ですが、貴女達人間は寿命が短い故に忘れてしまった様ですが…
500年前の魔族と人間の大戦より更に前、
大魔王様が魔界に生まれいずるよりも前の時、
魔界と人間界の境いには結界等も無く自由に出来た時代。
その時代では人間と魔族は種族の違いから来る誤解といさかいは多少あれど、
このエゾン・レイギスで共に生きる種族同士、
協調し手を取り合って上手くやっていたのです。
我等魔族は人間よりも遙かに長い寿命を持った種族。
故に500年より前のその時代の記憶を持った魔族も多いのです。
我が主であり魔竜軍を率いられる魔竜将ガルヴァーヴ様もそのひとり。
故に…我等魔族にとって、
貴女達人間と同盟を結ぶという考えは
元より突拍子の無い考えでは無いのです」
ディラムの口から全く予想だにしなかった言葉が述べられた。
人間と魔族が遙か昔は手を取り合っていただって!?
確かに…俺がこの異世界エゾン・レイギスに召喚された時、
召喚主である光の精霊ヒカリが人間と魔族は
かつては互いに交流があったと言っていた記憶は在るには有るが…
俺がこの異世界に来てから三週間の間に触れた人間側の書物では、
人間と魔族が激しい戦いを繰り広げていたという歴史は
これでもかというぐらいの量の記載が有ったが、
人間と魔族が協調していた時代なんていう記載は
全くこれっぽっちも無かったのである。
「…ちょっと待ってくれないかディラム殿!
途中で話を遮る無礼をどうか許してほしい。
ボクはポーラニア殿下の補佐をしているミリフィア公爵という者。
この聖王国の宮廷魔術師であり魔法学者も務めているものだが、
貴殿が言った、人間と魔族が共に手を取り合っていた時代というのは
ボクには一切聞いたことが無い。
この王城の書物にも、その様な記載は一切無かった。
貴殿の言う時代は…本当に…在ったのかい?
失礼を承知で言わせて貰うなら、
出来ることなら何かその証明をお願いしたい」
ポーラ姫の側に立っていたミリィが
半ば取り乱した口調でディラムに問いかけた。
「ミリフィア殿、
このディラムは魔族と人間が共に協調していた時代に
魔竜と人間の間に生まれた半魔族でございます。
ならば我の存在こそがその時代が在ったという証明になりませぬか?」
ディラムは右手の手甲を外すと取り出した手刀で小指を浅く切った。
そこから俺たち人間と同じ赤い血が流れ出た。




