第362話 有様
「優羽花、
ヒカリをよく見ろ!
綺麗な瞳から光が消えて…
目がすっかり死んでるぞ!
小さな身体を震えさせて…
まるで生まれたての小鹿みたいに、
すっかり怯えているじゃあないか!
俺はお前がヒカリに並々ならぬ愛情を
持っている事は知っている。
…だけどなあ!
全く遠慮する事なくそんなに激しく愛情をぶつけるから、
ヒカリはこんなことになってしまったんだぞ!」
俺は優羽花の腕の中で
酷い状態になっている幼女を指し示しながら叫んだ。
「えっ…
そんな…
ヒカリちゃん…
あ、あたし…
そんなつもりじゃ…」
俺に指摘されて改めてヒカリを見た優羽花は
その有様に狼狽えがら弁解の言葉を述べる。
「…おにいちゃん…優羽花…
…だいじょうぶ…
…ヒカリは光の精霊…
…光の勇者と連なるそんざい…
…勇者である優羽花をきょひすることは…
…ない…」
ヒカリは小さな体を小刻みに震わせて、
虚ろな目のまま語りかけた。
うああああ何かすごく無理してるぞおお!?
「お、おい優羽花!
いたいけな幼い少女であるヒカリにこんな…
強がった言葉を言わせて…
お前は何とも思わないのか!」
「…ああっー!?
ごめんねええヒカリちゃああんーー!」
ヒカリに必死に平謝りする優羽花。
女子高生が幼女に必死に許しを請う衝撃的な画。
しかも謝り倒している女子高生の方は
16年間同じ屋根の下で暮らして来た愛しい妹。
彼女の兄として正直な所、ドン引きである。
だが今は妹の有様にうなだれている時ではない、
急ぎやらなくてはいけないことがあるのだ。
俺は優羽花に向けて口を開いた。
「優羽花、
俺は今から急ぎクラシアの町にひとっ跳びして、
町に居る姫騎士団のカエデ達を連れて来る。
詳しい事は帰って来てから話すけど、
それまでは此処で待っててくれ」
「あ…うん、わかったよお兄」
「ヒカリも優羽花と一緒に待っていてくれ」
「んー、りょうかいおにいちゃん」
「それじゃあちょっとひとっ走り行ってくる」
俺は自分の顔に掛けた見通しの眼鏡を操作して
ツツジ、シダレ、カエデの三人の魔力数値を特定する。
よし…町のそこに居るんだな。
俺は気を両足に集中させる。
「地ノ宮流気士術・二の型、飛燕・改!」
俺は大地を蹴り上げると同時に気をロケットの様に噴射させ、
クラシアの町へ向けて高々と跳んだ。




