第360話 その準備
「わかった。
流石に今すぐに聖王国に向かって同盟の交渉手続きをするには
こちらも全く準備が足りていないから…
少し待ってくれ無いか?」
「了解した」
俺はディラムにそう言うと今から何をするべきかを急ぎ思考する。
まずはクラシアの町の中に退避している筈の、
姫騎士団のツツジ、シダレ、カエデに連絡を取らなければ。
俺は伝令魔法の類は使えないからなあ。
彼女たちから聖王国に連絡をして貰わないと。
まずはシノブさんに伝えるのが適切だろうな。
連絡した後は俺たちも急ぎエクスラント聖王国へ戻らないといけないが…
俺も姫騎士団も高速移動飛行魔法は使えないんだよなあ。
ここ迄は脚力上昇の魔法や気の強化によって、
あくまで地上を高速で走って来たのである。
対して魔族はヴィシルやイルーラを見るに
全員が高速移動飛行魔法を使えるみたいだ。
案内するこちら側の足が遅いのは色々といけないだろうしなあ。
それに今の今まで敵であった魔族を、
更には一度剣まで交えた魔族の騎士ディラムを、
同盟が目的であるとはいえ聖王国の首都へと招くのである。
今回の事は実は聖王国の奥深くへ攻め入ろうとする魔族の罠で…
万が一という事も考えなくてはいけないだろう。
つまりこちらは戦力としても万全とした体制で持って、
ディラムを迎えなくてはならないと言う訳である。
「ヒカリは移動飛行魔法の類は使えるよな?」
俺は彼女がいつも浮いているのだから、
移動飛行魔法も使えるでは無いか?
との安易ではあるが予想を立てて聞いてみる。
「んー、おにいちゃん?
ちょうじかんこうそくひこうのこと?
精霊のわたしには簡単なこと」
「よし!
それなら…近くの町に来ている
姫騎士団の三人も連れて一緒に飛ぶことは出来るか?」
「さんにんぐらいまでなら問題ない」
それなら三人はヒカリに連れて行ってもらうとして…
残るは俺だな。
優羽花は光の勇者の魔法力で、
聖王国からこのクラシア迄かっ飛んで来ている。
俺は妹歴16年の我が妹に連れて行ってもらうとしようか。
…ならば、優羽花の目を取り急ぎ覚ますことがまず必要だな。
しかもただ目を覚まさせるだけじゃ駄目だ。
俺を連れて全力で飛んでも問題ない程に、
そしてディラムに対するに戦力としての意味でも、
万全に気力を回復させる必要がある。
俺は目が死んでへたり込んだまま呆然自失状態の我が妹を
完全復活させる手段を思案、そして実行することにする。
「ヒカリ、優羽花が迷惑を掛けて済まない。
だがここは俺に免じて…
一度、元の幼女の姿に戻ってくれないか?」
俺はヒカリに手を合わせてお願いした。
「んー?
おにいちゃんがそこまでいうのなら…」
ヒカリの身体が光球に包まれた。
そしてその輝きが更に増したと思いきや、
彼女の手足が、背丈が、急速に縮んでいき…
元の幼い少女の姿に戻った。




