第355話 無力感
なん…だと…!?
俺はイルーラが普通にヴィシルの望みに答えたとばかり思っていた…。
確かにイルーラは自身の命が奪われようとも、
大魔王への忠義は変わらない様なことを言っていた。
自分の配下の命が大魔王に
奪われることに対しては抵抗の意思は見せたものの、
それでも彼女自身の大魔王への忠義を揺るがす要因にはなっていない。
つまり彼女の持つ大魔王の代言にはあるまじき優しさのそれも、
あくまで大魔王の意思を優先する行動の
範囲内での事だったということである。
なるほどこれは…
完全に俺は彼女の本質を見誤っていたという事になる。
俺が彼女に抱いている印象だが、
部下の魔族に対しても、人間である俺に対しても
終始穏やかで腰が低く、
人間を滅ぼして地上を我が物にしようとする
大魔王の直属の高位魔族としては、
”優し過ぎる”というものが、最初に有った。
次には…白い肌、小柄な背丈、華奢な身体のどれもが
大魔王直属の高位魔族としては似つかわしく無いと思わせた。
見た目的には強大な力を思わせる印象が全く感じられない。
そして何より、その華奢な身体と裏腹に大きなおっぱい。
俺を幾度も苦しめたロイヤルおっぱいのポーラ姫に
純粋な大きさでは及ばないかもしれないが
その華奢の身体に比例すれば相対的に凌ぐかもしれないおっぱい。
心の中で俺が高位魔族おっぱいと呼ぶそれが、
彼女自身によって俺の胸に当てられた感触が思い起こされる。
俺の身体がおっぱいに沈むそれは、まさにおっぱいの沼であった。
おっぱいおっぱい!
…あれ、俺の彼女に対する印象の大半がおっぱいであった。
優羽花!
これは一体!?
「お兄がおっぱい星人だからでしょ?」
俺の頭の中の妹歴16年のツンデレ妹は、
ゴミを見るかのような目線で俺を見下しながら言い放った。
この優羽花はもちろん俺の想像上ではあるものの、
本物と寸分違わぬ容赦無いツッコミを繰り出してくれた。
俺は伊達に16年の間、彼女と同じ屋根の下で過ごしてはいない。
俺に対して彼女がどういう反応をするか分かるのだ。
俺が一番優羽花を想像上通り動かせるんだ!
「キモっ!?」
俺の頭の中の優羽花は更に容赦ないツッコミを言い放った。
だって仕方が無いだろう?
本物の優羽花はヒカリの幼女には戻らない発言を受けてから
目の光が消えて呆然自失のままなのである。
本物がこの有様では、
頭の中の想像上に頼らなければならないという訳だ。
俺は優羽花を頼りにしている。
容赦無いツッコミをくれて喝を入れてくれる我が妹をな。
愛しているぞお!
優羽花あ!
…それはさておき、確かに優羽花の言う通り
俺は生粋のおっぱい星人ではあるが、
流石に自分が敵対する相手のおっぱいに関しては二の次にして
まずは相手本人に対しての細心の注意を払ってきたはずだ。
それなのに、この有様だと…??
つまり俺は…
大魔王の代言である彼女に出合い頭から手の上で踊らされて、
完全にしてやられていたということになる。
所詮、一般的な思考を持った人の身である俺如きでは
人を遥かに超えた存在である高位魔族の思考を読取ることなど
おこがましいということだ。
そもそも俺は25歳童貞である。
そんな俺の目では高位魔族云々以前に、
女性の本質を見極める事など出来るわけが無いのだ!
俺はたった今…
自身の目が完全に節穴であったことを思い知らされてしまった。
自分の無力さを痛感した俺は、
力無くがくりと膝を着いた…。




