第342話 カウンター技
その答えは、否だ!
ここで逃げれば俺たちだけは、
確実に生き延びることは出来るだろう。
だがそれでは俺の背後のクラシアの町は確実に滅んでしまう。
そして…ここぞという時の逃げ癖が付いてしまう。
そうなれば、
これから先もずっと俺は
逃げ続けてしまうことになってしまうだろう。
自分達の保身の為なら、
それ以外の何もかもを切り捨ててしまう
そんな男として一生を過ごすことになるだろう。
それに俺は元のセカイで辛い出来事から引籠りになって…
一度逃げている。
二度目の逃げはもう許されないのだ。
もし逃げれば…もう俺は立ち直れ無い。
今後逃げ続ける人生を送ることになるだろう。
そうなれば、
悪意と絶望だらけのセカイから逃げずに立ち向かうと決めたあの日から…
優羽花と静里菜の二人の妹に誓ったあの日から…
今日までの戦いの全てが無駄になってしまう。
それでは駄目だ!
駄目なのだ!
俺は今、
自分達も後ろの町も全て生き残らせる選択を取る!
だが今の状態のままでは其れは只の理想論、絵空事である。
理想を現実に事象化させなくてはいけない。
「優羽花、ヴィシル、
俺は今から、この大魔王の魔力球の射線を逸らすために技を切り替える。
だがその為には少しだが時間が要る。
10秒でいい。その間だけ魔力球を喰いとめてくれないか?」
「わかったよお兄!」
「了解、兄者サマ!」
俺のお願いに二人は快く答えてくれた。
「ありがとう二人とも!」
俺は『流星』の技を解くと、
瞬間的に限界まで気を高める。
そして気のほとんどを右足に集中させた。
「お、お兄…」
「あ兄者サマ…」
二人の妹が苦悶の表情を浮かべながら俺を横目で見た。
ふたりとも、もう限界だ。
「ありがとう二人とも、
あとは任せろ!」
優羽花とヴィシルは技を解除すると真横へ跳び退いた。
二人が居なくなり大魔王の魔力球は
抵抗する力が消えて一気にこちらへと飛んで来た。
だが俺は既に迎撃準備は出来ている。
『飛燕』がこちらから攻撃を仕掛ける蹴り技なら、
これは攻撃して来た相手を迎撃する、いわばカウンター技。
俺自身が万全な状態であれば、あらゆる攻撃を跳ねのける。
それが例え格上の相手のモノであっても。
「地ノ宮流気士術・七の型、天龍!」
「テンリュウ!」
俺は限界まで高めた気を纏わせた右足の蹴り上げを大魔王の魔力球に叩き込んだ。
そして俺の分身と化しているヒカリも、
俺と寸分違わぬ技を魔力球に向け叩きつけた。




