第340話 割り切れないもの
俺の気功波系気士術、『流星』は、
大魔王の巨人の魔力心臓核と化していた
魔言将イルーラの身体を粉々に吹き飛ばして消滅させた。
俺は元のセカイである日本で、
人に仇名す妖との生死を賭けた戦いに身を投じていた。
戦いとは非情である。
人の姿をした妖の命を奪ったことも一度や二度では無い。
だが俺はイルーラとは短い時ではあるが交流し、見知った仲である。
そんな彼女をこの様に必殺の気士術を放ってその命を奪って…
何も思わぬ筈は無い。
例え今殺した個体がその一部であって、本体が死んで無いとしてもである。
人の形をした存在を殺すというのは、
そう簡単に割り切れるものでは無いのだ。
俺の心中で様々な思いが渦巻いてぐちゃぐちゃになった。
そして俺は…
その混濁した思いを全て飲み込んで…
心を落ち着かせて…
戦闘の構えを解いた。
ちなみに今、俺の分身と化しているヒカリには
今回のイルーラへの攻撃は控えてもらう様に伝えていた。
攻撃の威力が高くなりすぎて、
イルーラの周りに捕らわれていた
エクゼヴ達を巻き込む可能性があったからである。
「グガアアアアアッーー！！」
魔力心臓核を失った大魔王の巨人は絶叫し、
その全身から急激に力が抜けていく。
…倒れる！？
俺とヒカリはエクゼヴ達を担ぎ上げると巨人の胸の中から急ぎ脱出した。
ずうううううううん
巨人は凄まじい音と地響きと土煙と共に大地に倒れた。
そしてその動きを完全に止めた。
「やったね、お兄！」
優羽花は星剣を自身の腰に下げた鞘にかちん！と納めると、
上空から俺の側にひらりと着陸した。
「ああ、優羽花。
大魔王を足止めしてくれてありがとうな。
お前が居てくれなかったら多分勝てなかったろうからなあ」
「ふ…ふーん、そう、そうよね！
あたしのこと、
もっと感謝しないとダメなんだからね！
…って、お兄？
あのでかいのって魔族で一番偉いっていう”大魔王”だったの！？」
「優羽花お前…
相手が大魔王だって知らずに戦っていたのか？」
「あたしはお兄が向かった国境付近にすごく大きな魔力を感じたから
心配になって急いで飛んできただけなんだけど…。
お、お兄どうしよう？
これってドラク〇で言う所の最後の敵を倒しちゃったって奴じゃないの？」
「いや、あのな…説明すると長いから、
かい摘まんで、説明するとだな。
あの巨人は大魔王の仮初めの肉体で…」
俺が今倒した巨人は大魔王本人で無いことを
優羽花に説明しようとしたその時…
突如、巨人の身体が炎に包まれた。
