第339話 憂い無し
「…よく来てくれたわケイガ…
…あなたならきっと此処に辿り着いてくれると思っていたわ…
…さあどうか…私を討って…」
魔言将イルーラは閉じていた瞳を見開いて俺に言葉を掛ける。
「イルーラ、最初から…
自ら大魔王の魔力心臓核になった時から、
殺されるつもりだったのか?」
「…私は大魔王様の代言、魔言将イルーラ…
…忠実なる大魔王様の僕…。
…私は元々は魔界に並みいる中位魔族のひとりでしか無く…
…魔力もたいしたことは無かった…。
…だけど魔界の奥底に封じられて動けなくなった大魔王様に…
…私の精神感応力の高さを見初められて…
…大魔王様の代言、魔界五軍将・魔言将にまでなった…。
…だから私の命は大魔王様の仰せのまま…。
…でも、私の配下の魔族たちはその限りで無いわ…。
…エグゼヴ達を生かすためには、私自身が魔力心臓核になって
…巨魔界樹で構成されたこの巨人の肉体を操作し…て
…エクゼヴ達の吸収を止める以外に方法は無かった…。
…でもエクゼヴ達は身体こそ吸収されなかったものの…
…巨人の身体のエネルギー源として魔力は吸われ続けている…。
…このままではいずれ魔力を全て吸われ尽くして死ぬわ…。
…私の配下達を生存させるには…
…魔力心臓核となった私が死ぬことで…
…巨人を止める事が必要だったわ…。
…これは云うなれば身内の問題…
…出来ることなら配下であるヴィシルに…
私の介錯をして欲しかったところだけれど…
…あの子には荷が重すぎたようね…」
「自分の大切な人を手に掛けるなんて
酷なこと、出来なくて当然さ。
大体…こんなにも部下思いで優しいイルーラの配下であるヴィシルが
そんな真似出来る訳ないだろう?
それはお前さん自身もよく解っているだろうに…。
まあ紆余曲折あって今はヴィシルは俺の妹、
こういう汚れ仕事は兄である俺がすればいい」
俺は両腕を突き出して構える、
そして両手のひらに気を集中させた。
「念のため一応聞いておくが…
お前さんは自身の身体の一部を切り離して
魔力数値を1000以下に抑えてこの地上に来たって言ってたから、
今此処に居るイルーラが死んでも
”魔界に居る本体のイルーラ”は死なないってことで良いんだよな?」
「…ええ、間違い無いわ…
…ここまで来て、私を心配するなんて…
…優しいのねケイガ……」
「だったら俺としても憂い無し、
ゆくぞイルーラ!
地ノ宮流気士術・五の型、流星!」
俺の手から放たれた気功波はイルーラの身体を包み込んだ。